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公的統計データなどを基に語られる“事実”は、うのみにしてよいのか? 一般に“常識“と思われていることは、本当に正しいのか? 気鋭のデータサイエンティストがそうした視点で統計データを分析・検証する。結論として示される数字だけではなく、その数字がどのように算出されたかに目を向けて、真実を明らかにしていく。

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 新型コロナウイルスから命を守らなければならない。しかし、経済は止めてはならない。一見相反する矛盾にいち早く挑戦している国の1つが日本です。

 命と経済のバランスを取るのは至難の業で、約7週間続いた緊急事態宣言下における外出自粛や休業要請により、企業や個人の経済活動はとてつもなく大きなダメージを受けました。この先、多少は感染者数が増えたとしても、よほどの事態でない限り、再び緊急事態宣言が発出されることはないだろうと筆者は思っています。

 なぜなら、様々な指標がリーマン・ショックや東日本大震災を上回って最悪の状況を見せたからです。それらをこの後見ていきますが、その被害は甚大です。もはや2度目の緊急事態宣言の発出はあり得ないまでに大きな傷痕を残しつつあります。

 まず、着目したのは、内閣府が発表している景気ウォッチャー調査です。百貨店、スーパーマーケット、コンビニエンスストアなどの小売店や、タクシー運転手、レジャー業界など景気に影響されやすい職種の人々にインタビューをした定量・定性データを兼ね備えた景気指標です。現況を示す現状判断DI、2~3カ月先の見通しを示す先行き判断DIを、家計動向、企業動向、雇用などの部門別に発表されています。

 DIは、50であれば横ばい、それ以上なら景気は上向き、それ以下なら景気は下向きと、ざっくり判断できます。家計動向関連、企業動向関連、雇用関連それぞれ以下のように推移していました。

現状判断DI(季節調整値)の推移
内閣府「景気ウォッチャー調査」(2005年1月~20年5月)

 2020年2月以降の落ち込みに注目してください。もともと下降気味でしたが、新型コロナウイルスによって、4月の数字は過去最低にまで落ち込みました。回答者の大半が景気の現状を「悪くなっている」と回答しなければ、このような数字にはなりません。08年からのリーマン・ショックや、11年の東日本大震災を上回る落ち込みであることが分かります。

 一方で、過去のリーマン・ショックや東日本大震災と違い、一部のスーパー、ドラッグストア、家電量販店が「巣ごもり特需」「テレワーク特需」の恩恵を受け、景気の現状判断を「良」と回答しています。企業決算に目を向けても、感染対策商品を取り扱うユニ・チャームやライオン、内食向けの日清食品ホールディングスなどが増収増益を発表しています。

 つまり、ミクロ・マクロ両方の数字から「緊急事態宣言の発出で影響を受けた人」「コロナ禍でダメージを受けた人」を見つけなければ「景気が悪くなったと言うけど、好調な企業もあるし、結局は経営努力の問題」みたいな乱暴な議論で済まされる可能性があります。そこで、何が起きているかをより細かく見てみました。