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「1人当たり」という指標の危うさ

 ここまでの説明で伝わると思いますが、生産性が海外と比べて低いといっても、別に働く一人ひとりの生産性を測っているわけではありません。ものすごくマクロな視点で定義しているだけで、「生産性」という言葉が勝手に独り歩きしている印象を受けます。

 つまり「労働生産性が低い」というのは「労働者1人当たりのGDPが低い」と同義で、必ずしも「個々人の生産性が低い」と同義ではないのです。海外と比べて仕事が遅いとか、出来が悪いとか、そういう意味ではありません。

 さらに言えば「1人当たり」という指標は、実際に一人ひとりを計測しているように聞こえますが、実際のところは総労働者数で割った単なる平均値です。平均はすごく便利ですが、使い方には注意が必要です。

 例を挙げます。2016年の総務省家計調査によると、2人以上世帯の貯蓄現在高は平均1820万円でした。ただし、世帯を貯蓄額の低い世帯から高い世帯へ順に並べて、ちょうど真ん中に位置する(=中央値)世帯の貯蓄現在高は1064万円で、平均を下回ります。貯蓄額が0の世帯まで含めると996万円で、平均値の約半分となります。ちなみに、正規分布しないデータの「真ん中」を抽出するなら、平均より中央値を扱うのが普通です。

2人以上世帯の貯蓄現在高の平均値は1820万円だが、中央値でみると760万円ほど少ない1064万円になる。
出所:総務省家計調査(2016年):「貯蓄現在高階級別世帯分布(2人以上の世帯)」

 平均値=だいたい真ん中を表す代表的な値と受け止めがちですが、上図のようにロングテールを表す分布では、平均値は実態から乖離します。中央値の方が実態に即しているのですが、労働生産性は一人ひとりを測っていないのでそれが分かりません。

 果たして「労働者1人当たりのGDP」はどこまで労働生産性の実態に合致するのか、いったいどこの誰が証明できるのでしょうか。それも分からず「単に割ってみた」だけなら、それは数字遊びに過ぎない、とするのは言い過ぎでしょうか。