公的統計データなどを基に語られる“事実”は、うのみにしてよいのか? 一般に“常識“と思われていることは、本当に正しいのか? 気鋭のデータサイエンティストがそうした視点で統計データを分析・検証する。結論として示される数字だけではなく、その数字がどのように算出されたかに目を向けて、真実を明らかにしていく。

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 新型コロナウイルス感染者数の拡大が続いています。米国のジョンズ・ホプキンス大学によると、2020年6月9日時点で感染が確認されたのは世界全体で708万5894人、うち亡くなられたのは40万5168人です。

 日本経済新聞が公開しているチャートを見ると、ヨーロッパや米国の感染者の比率が相対的に下がってきたのに対し、中南米やその他(インド、ロシアなど)で感染が拡大しているようです。このペースが続けば、8月中には感染者が1000万人を超えそうです。

新型コロナウイルス感染者情報
新型コロナウイルス感染者情報
米国ジョンズ・ホプキンス大学「COVID-19 Dashboard」
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 どうすれば感染者数・死亡者数の拡大を防げるでしょうか。様々な検証の中で、筆者が注目しているのは「貧困」です。

 英国で行われた3802例の新型コロナウイルスの検査(1月28日~4月4日)を調査したオックスフォード大学の研究結果が、英国の医学誌「The Lancet」(ランセット)に掲載されました。それによると社会的経済的困窮度が高い層は668例中197例(29.5%)が陽性だった一方で、困窮度が最も低い層は1855例中143例(7.7%)が陽性でした。陽性率に4倍もの差が開いたのです。

 さらに人種で分けると、白人2497例中388例(15.5%)、アジア系152例中47例(30.9%)、黒人58例中36例(62.1%)と、サンプルが少ない点は注意が必要ですが、どうやら均一に感染しているとは言い難い状況にあると分かります。

 米国の民間調査機関APMリサーチラボは「THE COLOR OF CORONAVIRUS(コロナウイルスの色)」と題した記事を公開し、米国40州とワシントンD.C.における20年5月26日時点の人口10万人あたり死亡者数のうち、黒人は54.6人、ラテン系アメリカ人は24.9人、アジア系アメリカ人は24.3人、白人は22.7人と大きな差が出たと報道しました。

 なぜ人種によって、陽性率や感染者数は違うのか?

 不均衡の要因として、貧困、所得、健康が密接に絡み合っていると考えられています。所得や地域によって「質の高い医療サービス」を受けられない可能性、リモートではなくリアルな出社が求められている可能性など様々な理由が浮かびます。

 新型コロナウイルスの前で、人の命は平等ではない--この残酷な事実を乗り越えるために世界中で対策が始まっています。では日本では何が起きて、どのような対策が取られているでしょうか?

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