総務省の統計調査員紹介ページが詳しいのですが、統計調査員は、総務大臣等や都道府県知事から、統計調査の都度任命される非常勤の一般職公務員と位置づけられています。統計調査の最前線に立って、調査票の説明、書き間違いのチェック、調査票の回収率向上などの役割を担います。

  一方で、報酬は15年の国勢調査では1人につき約3.9万~7.3万円だったと第198回国会(19年~20年)で総務省の横田信孝政策立案総括審議官が答弁しました。また、平成30年度にける基幹統計調査員の日当は7080円だと分かりました。1日8時間程度で換算すると、1時間900円程度で、地域によっては最低賃金を下回りかねない金額です。

 かかる手間や対面作業に伴うストレスなどを考えると、その報酬額は低いのです。総務省はさすがに低いとの認識をもっているようですが、専門性や正確性を求められる割には、リターンが少ないことには変わりありません。

 低過ぎる回収率に嫌気をさして、調査員やデータ収集の現場で数字が改ざんされる事件も起きています。以前の連載(「今、統計の現場で起きている危険なこと」)で紹介したように、19年の毎月勤労統計では統計調査員による不正が相次いで発覚しました。調査が平常時よりもやりにくくなることを考えると、こうした不正が増えることも予想されます。

 果たして、「非接触」「そして報酬は据え置き」で調査は可能なのでしょうか。世間では、新型コロナウイルスの感染や、「アフター・コロナ」に向け、社会制度や経済活動のあり方についての見直しが進んでいます。しかし、公的統計の世界ではそうした提案や変革への動きはほとんどみえません。これまで積み残してきた問題が、新型コロナによってより大きく吹き出しつつあるのです。

「新しい生活様式」に統計はなじめるか?

 政府の公的統計が現在置かれている状況は、あまり注目されていませんが、実は「とても大変」であり、政治家の皆さんにもぜひとも注目していただきたいのです。

 学校が休校中なので、文部科学省「全国学力・学習状況調査」「全国体力・運動能力、運動習慣等調査」が中止になっています。そうならば、「新しい生活様式」でテレワークが強力に推進されている中、例えば厚生労働省「毎月勤労統計」など事業所を対象とした統計はどこまで回答してもらえるでしょうか。事業所に協力を依頼する他の統計も同様です。

 非常事態宣言の解除後も、テレワークの継続を政府は求めています。出社する従業員を少なくと言う一方で、依頼内容が昔のままだった場合、事業者はこうした事務作業を今まで通りの優先度で対応してくれるのでしょうか。

 特に国勢調査に関して言えば、「非接触」「オンラインによる回収率を増やす」とされていても、ブレイクダウンした対応策が出されていませんし、延期、中止、調査方法の変更などの問題への指針、対策がないままタイムリミットが刻一刻と迫っているのです。

 調査票を受け取るにしても、誰が回答したのか分からないので、衛生対策に基づく開封作業が必要になるでしょう。時間を要する作業が各所で増えることになりそうです。その結果、調査結果を出すのが遅れる可能性もあります。そうなると国勢調査などの一次資料をベースにして作成される二次資料(代表例は内閣府「GDP統計」)の発表遅延も考えられます。

 仮に、今までの調査の仕組みを変えたら変えたで、調査票の回収率や調査結果に影響が出ると考えた方がよいでしょう。例えば対面だったから「ようやく回収できた調査票」が欠落したり、「嫌々答えてもらった層」からの回答が減ったりすることは十分考えられます。

 これらは結果の精度に影響を与えるのではないでしょうか。こうした状況を踏まえて、ではどう結果を評価するのかにも知恵を絞る必要があります。とにかく分からないことだらけで、精度が落ちないか、今まで通り集計できるか……、関係者全員が不安になっているでしょう。

 こういう時だからこそ政治家が必要な金・人は出す、必要に応じて時間も調整すると出張ってくれればよいのですが、統計に興味・関心をもってくれる政治家はほとんどいないことは19年の毎月勤労統計不正で身に染みています。問題の解決を目指した政策が打ち出された気配はありません。それだけに、このままずるずると国勢調査に向けて時だけが進むことになりかねません。公的調査が揺らげば、正しい政策を打ち出せないことは、これまでの連載でも繰り返してきたことですが、本当に心配です。

 調査結果が出てから「なんで、こんなことになっているんだ! 総務省、仕事しろ!」と言っても、手遅れです。このまま、今この瞬間を見逃すと、重いツケとなって帰ってくると筆者は感じています。

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