「非常時における統計」をどうすべきか?

 だとしても、筆者は国民生活基礎調査や食品価格動向調査などの統計を「中止」するのではなく、延期、あるいは郵送やオンラインへの切り替えで対応できなかったのかと考えます。

 政府の実施する統計には、①統計調査員が訪問・対面する、②電話、③郵送、④オンライン、この4種類のいずれかの方法で調査票を回収します。しっかりと回答してもらわなければならないので、基本的には「①訪問・対面」を選択している公的統計が多いのは事実です。しかし、感染症対策で①が難しい現在、②③④の代替手段を取るべきで、一気に「中止」とする選択肢は避けるべきではなかったでしょうか。

 例えば、経済産業省「工業統計調査」は調査員による回収からインターネットまたは郵送による回収に変更し、総務省「小売物価統計調査」は調査員による対面調査から一部を電話調査に変更するようです。総務省「労働力調査」「家計調査」でも、③の郵送を可としました。このほか、他部署から臨時に加勢してもらうなどの対応もありえます。国民生活基礎調査や食品価格動向調査の実施は本当に難しかったのでしょうか。

 調査の中止・延期・調査方法の変更は総務省の統計委員会が決定することにはなっていますが、事実上、担当省庁の裁量で選べることになっており非常に変です。早急に基本的な指針や取り決めが必要ではないかと考えます。

 統計委員会の議事録にもコメントが残っていますが、現在の公的統計について「非常事態発生時にどうするか」は取り決めがありません。大地震が起きても統計は行われましたが、戦争や紛争状態に陥ったらどうなるのでしょうか。せめて、どういう状況になれば中止、ここまでなら延期と決まっていれば、まだ運用しやすいのですが……。

 気になるのは、20年は5年に1度の国勢調査の年だということです(10月1日実施予定)。しかも今回は10年に1度の大規模調査の年にあたります。国勢調査を当初の予定のまま実施するのか、延期するのか、また調査方法を変えるのかは非常に重要な意思決定となります。既に米国では、国勢調査局が「直接面接を一時的に中止」して、電話で対応すると3月27日にホームページ上で宣言しています。

総務省の国勢調査のホームページ
総務省の国勢調査のホームページ
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 日本では4月28日、閣議後記者会見で高市早苗総務大臣が国勢調査に対して「統計調査員ができる限り非接触で調査票を配布」「オンライン回答率を高める」(前回は36.9%だったが今回は目標で50%に引き上げる)と回答しました。

 しかし、「できる限り」非接触を目指すとしても、調査表配布・回収時の濃厚接触が避けられないケースは出てくるでしょう。そうした状況を嫌って、国勢調査の統計調査員が足りなくなることも考えられます。そうなると、調査を想定通り進められない可能性もあります。実際、国民生活基礎調査では統計調査員の集まりが悪かったようですから、国勢調査でもそうした事態が起きることは十分に考えられます。

 ちなみに、70万人は必要と言われる統計調査員ですが、集まりが悪いのか募集期間を3週間程度延期すると5月8日の通知で発表しています。大丈夫か……と不安になりました。

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