統計中止の背景に弱体化する組織の影響

 5月19日時点で一時中止、完全中止が発表された統計は、厚生労働省「国民生活基礎調査」、農林水産省「食品価格動向調査」、直接的に経済と関わりませんが、文部科学省「全国学力・学習状況調査」「全国体力・運動能力、運動習慣等調査」です。

 「国民生活基礎調査」は53ある基幹統計の1つであり、厚生労働行政の企画及び運営に必要な基礎資料ともなります。相対的貧困率や世帯年収など、国民生活の現状を把握するのに欠かせない統計です。全国の保健所や福祉事務所を通じて、世帯・個人に調査員が調査票を配布して回収する方法で行われています。

 1986年の開始以降、阪神大震災、東日本大震災など大規模な地震が起きても中止されることはありませんでした。しかし、まだ緊急事態宣言が出る前の3月30日に調査の中止が発表され、統計に関わりのある人たちを驚かせました。

 厚生労働省は、中止する理由として3月30日に開催された統計委員会で「現在、保健所では、新型コロナウイルス感染症対策が最優先である」「統計調査員と対象世帯の方との長時間の接触は好ましくない」「結果精度の確保等の観点から、郵送調査への変更や時期の延期は困難な状況である」の3点をあげています。

 統計委員会の議事録を読むと、より分かりやすい本音が暴露されています。

  • 4月に入ると、都道府県でも人事異動や、保健所等での調査員の任命活動の準備を始めるフェーズに入る。これを緊急に止めないと、保健所のリソースが奪われてしまう
  • このような状況の中で、調査員がなかなか集まりにくくなっている

 国民生活基礎調査は実施時期が6月であり、実際に世帯を巡る統計調査員のスカウトを考えると、4月に入る前に中止を表明しなければならなかった……という背景がうかがえます。

国民生活基礎調査の流れ
国民生活基礎調査の流れ
国民生活基礎調査「調査の概要」より
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 ちなみに保健所数の推移について、全国保健所長会の資料によると1991年度の852カ所をピークに削減され続け、2020年度は45%減の469カ所になっています。

保健所数の推移
保健所数の推移
厚生労働省健康局健康課地域保健室調べ
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 「命」も大事、「経済」も大事だと思いますが、何度も続いた行政改革や構造改革の中で、私たちは「より経済が大事」を選択してきました。その結果、保健所の数は減り、その分新型コロナ対応に苦労し、また統計を回す余裕もなくなってしまったようです。

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