そうした問題のある数字が、世界保健機関(WHO)の4月22日の統計に「Total new deaths(新規死亡者数)」として91人分がそのまま掲載されました。繰り返しますが、実際に前日に亡くなられたのは17人で、厚生労働省がある意味で「隠し持っていた74人」をこのタイミングで公表したにすぎないのに、です。実態と違う数字が、全世界に「正しい数字」として報告されている現状は、さすがにちょっとまずいのではないか……と感じずにはいられません。
もっとも、英国が4月30日には、「新型コロナウイルスに感染して病院以外で死亡した人数」を一気に計上して前日比4400人を記録し、世界を驚かせました。そう言えば武漢でも、病院外での死亡例を含めて4月18日に死者数を追加で1290人報告しています。そういう意味では、他の国も同様なのかもしれませんが……。
さすがに厚生労働省もこの状態はまずいと気づいたようで、5月9日から、都道府県からの報告をまとめるのではなく、都道府県がホームページで公表する情報を集計する方法に改めました。「各都道府県の検査陽性者の状況(空港検疫、チャーター便案件を除く国内事例)」という文書名で公開されています。これによって、今後国と都道府県の間で数値のかい離はなくなるはずです。
まだまだ数字は覆る可能性がある
もう1つ気になるのは、国立感染症研究所の「21大都市インフルエンザ・肺炎死亡報告」のデータです。これによると東京だけ20年の第8週以降ごろから、インフルエンザの流行による予想される死亡者数の上限(しきい値)を大きく超えていると分かりました。この中にも、新型コロナウイルスによる死亡者が紛れ込んでいる可能性を筆者は感じています。これ以外にも、英国や武漢の例のように、病院で亡くなっている方の中に実は新型コロナ感染者がいた……という例が出てくる可能性もあり、まだまだ数字は覆る……という前提で考えた方が良さそうです。
今から1年前に厚生労働省所管の毎月勤労統計で不正が発覚した際に、しっかりと統計に関する予算を拡充しておけば良かったのに、とも思いますが後の祭りです。現場も混乱している、その余波で国も混乱している、連携はアナログだからタイムラグも発生して、混乱に拍車を掛けます。まさか令和にもなってインターネットではなくFAXを使うというのはないだろう、と思います。
5月11日には東京都が「111人分の報告漏れ」「35人分の重複計上」があったと発表して大きな話題となりました。「端末に入力したものを改めて手で書き写して報告するオペレーションが負荷を高める一因」だったそうです。何のために元ヤフー社長の宮坂学さんが東京都副知事になったんだ、と本当にガッカリします。
この状態があと数カ月続けば、「日本が発表する数字は信頼できない」と言われかねないので、あわてて厚生労働省も都道府県の情報を待つのではなく、自ら情報を取りにいく方法に変えました。それにしても国を動かす官僚が、我々と同じようにホームページを見てチェックするのはさすがに情けないというか、その作業をシステム化して他にやるべきことやってよ……と感じます。
いつか本気出す。いつか改革する。いつかちゃんとやる。いつかいつかと先延ばしにしていたら、その「いつか」がまさか訪れてしまったようです。
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