つまり、その日発表された新たな国内感染者は、およそ2週間前の新規感染状況を反映しています。したがって緊急事態宣言直後の4月11日以降に感染者の報告数が減ったのは、単なる「偶然」です。

 実際、最初に緊急事態宣言の対象となった7都府県に絞って、その日発表された新たな国内感染者の県別内訳を見てみると、東京都や大阪府は11日以降も減っていませんし、県によってその傾向はマチマチです。

国内感染者の県別推移
国内感染者の県別推移
「新型コロナウイルスに関連した患者等の発生について」(厚生労働省)
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国内感染者の推移(東京都、大阪府)
国内感染者の推移(東京都、大阪府)
「新型コロナウイルスに関連した患者等の発生について」(厚生労働省)
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 また、全体の推移を見つつ、層別(都道府県別)にも見なければ「特定の施設でクラスターが発生した」のか「全体的に増えている」のか区別できません。例えば、3月28日は全体で見て194人の報告が上がっていますが、うち千葉県が64人を占めています。これは障がい福祉施設でクラスターが発生したからです(千葉県報道資料より)。

「休校していた学校の再開」は歴史に残る“ナッジ”となった

 グラフを見る限り、4月11日に感染者数が一気に増えたのではなく、それから1週間前の4月3~5日前後から増加の傾向が加速しています。いったい何があったのでしょうか?

 4月3~5日の約2週間前は3月20~22日、ちょうど世間は春分の日を含めた3連休でした。

 連休初日の20日、新型コロナウイルス感染症対策本部で安倍首相は「新学期を迎える学校の再開に向けて、具体的な方針を、できる限り早急に文部科学省において取りまとめてください」と述べ、全国一斉の臨時休校の要請を延長しない方針を明らかにしました。

 その結果、これまで休校を強いてきた学校が再開されるぐらいなんだから、もう大丈夫なんじゃないかと感じ取った多くの国民が、自粛を破り一斉に外へ出たのが21~22日です。実際に私も近所の大型スーパーへ足を運び、あまりの混雑ぶりに危険を感じて、自宅へ引き返しました。読者の皆さんも似たような経験をされていないでしょうか?

 行動経済学の分野で「ナッジ」と呼ばれる言葉があります。「ヒジで軽く突く」という意味で、強制やインセンティブに頼らず、人々の思考のクセを利用して選択肢を提示する手法です。

 今回に関して言えば、学校再開のメッセージと、政府の「国内の感染状況については、爆発的な感染拡大には進んでおらず、引き続き、持ちこたえている」(3月20日、第21回新型コロナウイルス感染症対策本部)といったポジティブなメッセージのみを受け取り、「自分は感染しないだろう」とする”楽観主義バイアス”に拍車が掛かったのではないかと推察します。

 あのとき、学校再開のメッセージを伝えなければ……。そう言いたくなる気持ちもあるでしょうが、3月20日の時点で4月以降に感染者数が急増するとは思っていなかったわけで(予想した人もいたでしょうが)、今になって何を言っても「後出しじゃんけん」になります。ただ1点言えるのは、今回の発見を踏まえて、政府が発信するメッセージや伝え方については、プロフェッショナルの参加が求められるのではないかということです。

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