平成30年(2018年)度の年代別内訳を見てみましょう。「脳・心臓疾患」は40代以上が90%以上を占めますが、「精神障害」は20代から50代まで幅広いと分かります。身体の問題は若さでカバーできても、心の問題に若さは関係ないと分かります。
精神障害による「過労死」認定はなぜか横ばいに
一方で、請求が通り、労働災害と認められた件数は以下のように推移しています。請求件数と見比べると「脳・心臓疾患」は10年ほど前から認定される割合がやや落ちていると分かります。「精神障害」は増加する請求に対して増えていきましたが、7年ほど前から上限でもあるかのように500人前後で横ばいとなっています。この傾向は少し変ですね。
労働災害の請求が乱発されていない限り、労働災害と認められる件数は基本的に請求件数に比例するはずです。認定されなかった理由が公開されていないので何ともいえませんが、例えば労働基準監督署の人員不足で調査に時間が割けず、認定数が伸び悩んでいる可能性もあるかもしれません。
ちなみに、労働災害と認められた件数のうち、対象者が死亡している(=過労死)件数は以下のように推移しています。
ただし、この人数だけが「過労死」の全体ではありません。“正式”に認定された過労死以外にも、残念ながら労災認定が下りなかった事案や、そもそも労災申請を出さなかった(身寄りがなく請求する人がいなかったなどの)場合が考えられるからです。
厚生労働省によると、自殺者数のうち勤務問題(仕事の失敗、職場の人間関係、職場環境の変化、仕事疲れ、その他)が原因と思われる人数を平成29年(2017年)は1991人、平成30年(2018年)は2018人と発表しました。
勤務問題による自殺であってもその多くは様々な原因・背景を抱えています。また、自殺された方1人につき理由を3つまで挙げられる統計仕様のため、仮に「仕事疲れ」が原因の1つに入っていても、それらの人全員が「過労死」とも言い切れません。ただ何割かはいらっしゃると推察します。
「過労死」対策の一番難しい点は、過労死等防止対策白書などで見えている数字が全てではないことです。見えている数字だけで判断すると対策を誤るかもしれません。しかし、どうすれば全体を可視化できるのか、実のところ筆者もよい案が浮かばないのが現状です。
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