公的統計データなどを基に語られる“事実”は、うのみにしてよいのか? 一般に“常識“と思われていることは、本当に正しいのか? 気鋭のデータサイエンティストがそうした視点で統計データを分析・検証する。結論として示される数字だけではなく、その数字がどのように算出されたかに目を向けて、真実を明らかにしていく。
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新型コロナウイルス感染者が日本で初めて確認されたのは、2020年1月15日のことです。つまり、あれから1年が経過したことになります。長かったようで短かったような、人々が団結してウイルスに立ち向かった一方、国や自治体の施策に怒りを通り越してあきれ果てることもあり、何とも言い難い心境です。
新型コロナウイルスは、日本だけでなく世界のビジネスを一変させました。例えば「マスク」。絶対にマスクをしてこなかった百貨店業界の従業員ですら、マスクをつけ接客するようになりました。また、様々な業界がテレワーク、時短営業、ソーシャルディスタンスなどの「コロナ対応」を余儀なくされました。
報道の世界も「コロナ対応」を迫られて、二重の意味で大変だったのではないでしょうか。感染予防のためのリモート取材では、あうんの呼吸での取材がしにくかったと聞いています。また、自治体や厚生労働省が発表する感染者数報告を報道各社が集約、整理して発表するものの、各社で数字が一致しないことがあり、苦労されたと聞いています。
報道各社は感染状況を分かりやすく伝えるためにダッシュボード(様々なデータや情報をまとめて一覧表示するツール)をつくり、率先してウェブサイトに公開しました。中でも早かったのがJX通信社「新型コロナウイルス 日本国内の最新感染状況マップ」(20年2月17日公開)と東洋経済オンライン「新型コロナウイルス国内感染の状況」(20年2月27日公開)です
今でもSNS(交流サイト)上で引用されることの多い2社のダッシュボードですが、実は東洋経済オンラインのダッシュボードを運用している荻原和樹さんと筆者は「データビジュアライゼーション」「データジャーナリズム」に携わっているという共通点を持ち、以前から顔見知りでした。
荻原さんは、10年に東洋経済新報社に入社し、デジタル分野におけるデザインを学ぶため英国エディンバラ大学大学院に留学。その経験を生かしてデータ可視化を活用した報道コンテンツの開発、デザイン、記事執筆をしてきました。
荻原さんの仕事は、報道(ジャーナリズム)でありながらデータビジュアライゼーションでもあります。国内では珍しいようですが、海外では、Data Journalist(データ・ジャーナリスト)またはData Editor(データ・エディター)といった、データに強いジャーナリストが活躍しています。「彼らは記事を書きつつ、各種のデータ可視化ツールを使ったり、場合によってはコードを書いたりもしています」(荻原氏)。
日本でこうした職種が見慣れない理由を、筆者は「分業」が原因だと考えています。記事を書くという行為の専門性が極めて高いが故に、他の要素が記事に入る余地がなく、デザインやエンジニアリングの要素がないコンテンツに仕上がるのだと思います。
荻原さんは「海外では編集部にエンジニアやデザイナーが所属するなど、距離感が極めて近いことがあり、それがデジタル技術やグラフィックと相性の良い報道を生み出しているのではないか」と仮説を立てています。
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