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人は何によって動くのか

寺田: 5年前に私が社長に就いた時にまず実践したのは、「カゴメの悪しき体質」をリストアップすることでした。すべて自分で書き上げた。そして、それを社員にも伝えました。

 典型的なのが「変化に疎い」という体質です。世の中がどうなろうが、自分たちが信じるいいものを作り続ければいいと思っている。でも、それでは利益が出なくて会社はいずれ危機にひんします。

 利益が出ないとどうなるか。ステークホルダーに利益を分配できないだけでなく、新しい事業や挑戦に投資ができなくなります。投資ができなければ、成長は望めません。だから利益が大事なんだ。そんな話を社内に向けて繰り返していましたね。

 社内報で年4回、全体朝礼で年4回、あとは事業所を40カ所回りました。まずは管理職に、そして若手社員にも、直接話しました。やはり現場の意識を変えることが大事ですから。

北野:徹底してコミュニケーションに注力してきたのですね。

寺田:得意先にも行きましたし、生産者のところにも、年2、3回はお邪魔したりして、あらゆるステークホルダーと対話をしました。これは今でも続けています。

北野:既存商品の中には、容器や提案方法を見直すことで返り咲いた商品もあると聞きました。これも意識改革の成果なのでしょうか。

寺田:収益構造改革の過程で、「この商品は終売か継続か」という判断を下す時、そんな発想が生まれてきたんです。どう頑張っても難しい商品は終売にせざるを得ないけれど、「ひょっとして、ここの価値を磨けば価格を上げても買ってもらえるかもしれない」という可能性を見いだせる商品は、リニューアルの方法を探っています。バリューアップしているわけです。

 機能性表示の規制緩和の流れに積極的に乗ったのもバリューアップの1つでした。何十年も前から自社で独自に研究してきた成果が、ある日、法改正で日の目を見る。長年の蓄積があったからこそ、どこよりも早く機能性を表示することができました。これこそ、強みを生かしたバリューアップの好例です。

北野:そういったアイデアは、寺田社長がトップダウンでどんどんと発案しているのですか。

寺田:機能性表示については、全社員が「これはチャンスだ」と思っていたはずです。私もアイデアを出しますが、私はどちらかというと商品開発より、働き方や「人がどうやったら変わるのか」といったテーマについてアイデアを考える方が得意です。だって、それが一番面白い仕事だと思わない?

北野:そう思いますし、寺田社長は本当にそういう方なのだと確信しています。

 「働き方の改革は生き方改革」というコピーを見た時、「人は何によって動くのか」を熟慮する方なのだろうと感じました。

寺田:マーケティングの勉強を深めていくと、最後は心理学に行きつきます。それは、これまでやってきた仕事の延長なのかもしれません。とにかく難しい言葉は一切、使いませんから。「トマトの会社から野菜の会社に」とか。分かりやすさを重視して、社員に伝える言葉を選んでいます。

 横文字もできるだけ使いません。横文字でごまかしている人もたくさんいますよね(笑)。特に知識の多い人たちは平気でやってしまう。けれど、それでは伝わらないから、私はできるだけ表現を変えるようにしています。「ダイバーシティ」も本当はあまり使いたくないんだけれど、「多様性」だとちょっと堅い。だから「日比谷シティじゃないですよ」と冗談を交えながら、伝えています(笑)。

北野:そういった遊びのひと言があるだけで、かなり印象は変わります。

寺田:冗談だけではありません。歌もよく歌います。多趣味なもので(笑)。

北野:引き出しが多いんですね。寺田社長が分かりやすさにこだわっていることがよく理解できます。「なぜ経営者の言葉は、分かりやすくなければいけないのか」と聞かれたら、何と答えますか。