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まず「ムダ、ムリ、ムラ」を洗い出す

寺田:要は、共感してもらえなければ組織は動きません。共感があって初めて再現性が高められる。だから私は常に「従業員だったらどう思うか」という視点で考えています。

 それも「全体の2割が理解すればいい」という程度ではなく、できれば全員に納得してもらいたい。どうやったら社内の隅々まで届く言葉になるのか、ひたすら考えました。

 どうやって届けるか。時代が変化しているのは大きなチャンスです。「これから先にどういう時代が迫ろうとしているのか。そこで生き残るには、このままではいけない。これまでの労働慣行とは逆の挑戦をしなくてはいけない」。この危機感をまず共有することが出発点でした。

北野:実際にどういうコミュニケーションから初めていったのでしょう。

寺田:徐々に、ですね。いきなり「生き方改革だ!」と言うのではなく、会社として存続するための構造改革の必要性から伝えていきました。売り上げさえ伸ばせばいいという時代は終わり、しっかりと利益を出していかなければいけない、と。

 しかしながら、私自身の反省も込めて申し上げると、うちはかなり残業体質の会社だったんです(笑)。利益を出すことだけに集中すると、猛烈な残業が迫るだろうという予測は、容易にできました。

 そこで、収益構造の改革とセットで「20時以降の残業禁止」という働き方改革を打ち出すことにしたんです。

北野:恐らく現場からの反発は相当あったのではないでしょうか。「残業禁止? それじゃ仕事が終わらないよ」と。どのように対処したのでしょう。

寺田:それはもう「仕事を見直しなさい」の一点張りです(笑)。仕事の「ムダ、ムリ、ムラ」を洗い出そうよ、と繰り返し言い続けました。

 私はこの会社に40年以上います。つまり創業120年のうちの、3分の1はすでに在籍したことになるんです。その中で気づいたのは、カゴメは非常に危機に対して強い会社なんです。

 売り上げや利益などを見ると、数字のアップダウンはかなりあるのだけれど、沈みっぱなしにはならないんです。それが、ある種の安泰ムードを生み出して、「変わらなくてはいけない」という発想には、なかなか向かいづらかった。

 トップダウンで変革の必要性を強く発信しなければならなかったんです。

北野:変革が進まない組織でよくありがちなのが、経営層が自分たちの過去の経験を捨てられず、それを次の世代にも強要してしまうことです。

 「俺はこれだけ残業してやってきたんだから、君たちも頑張りなさい」と無意識に自分のコピーを量産しようとしてしまう。逆に言えば、「変革しよう」と打ち出すことは、自分たちの過去を否定することでもあるわけです。

 つまり、経営者自身が変われるかが、非常に重要になる。寺田社長は、なぜ変わることができたのでしょう。