全7774文字

 2019年1月に世に出た話題の本『天才を殺す凡人』。本連載では著者の北野氏が、幅広い業界のキーパーソンと対談。組織やチーム、そして人間に宿る「才能」を生かす方法を探る。

 連載6回目のゲストとして登場するのは、食品メーカー大手、カゴメの寺田直行社長だ。保守的な傾向の強い食品メーカーの業界にあって、カゴメは、社員の働き方やキャリアパス、中途採用戦略など、人を巡る改革を次々と実践している。また「働き方の改革は生き方改革」と掲げ、副業を解禁したり、役員も評価を受けて報酬に反映させたりするなど、一歩先を行く取り組みを行っている。寺田社長は、改革を通してカゴメをどのような企業に変えようとしているのか。話を聞いた。(構成/宮本 恵理子)

北野唯我氏(左)とカゴメの寺田直行社長(撮影/竹井 俊晴、ほかも同じ)

北野氏(以下、北野):この連載では、僕の2作目の著作である『天才を殺す凡人』を読んでくださった各界キーパーソンにお会いし、組織における才能の生かし方について、対話を重ねています。

 以前、本連載に登場してもらった立教大学の田中聡助教から、「社内人材育成や働き方改革が進んでいる企業といえばカゴメ」と聞いて、今回はぜひ、寺田社長にお目にかかりたいと希望しました(詳細は「優秀なプレーヤーが、優れた経営者になれるわけじゃない」「上から目線で評価するのではなく、トップが自分で新規事業を立ち上げよ」「原因は会社にあった、『働かないおじさん』が量産されるワケ」)。

寺田社長(以下、寺田):ご指名いただいてうれしいです。『天才を殺す凡人』も読ませていただきましたが、非常にレベルの高いテーマが書かれていると感じました。北野さんこそ、この本で描かれる天才そのものです。そして、天才にこの本を書かせた出版社は秀才。内容に感動して共感している凡人が、この私です(笑)。

北野:そんな……ありがたいお言葉です。読んでくださっただけでもうれしいのですが、寺田社長は、どこに一番共感を寄せられたのでしょうか。

寺田:この本は「ダイバーシティ」について語っています。ダイバーシティという言葉には、人それぞれの多様性という意味もありますが、1人の人間の中にも多様性は存在します。その事実に気づくことができます。と同時に、今まさに、「会社と個人の関係性の変革」に挑もうとしている当社にとってはピッタリの本でした。

北野:うれしすぎて震えています(笑)。僕も、今日はたくさん伺いたいことがあります。

 寺田社長は2014年にカゴメの社長に就任して以来、「年間総労働時間を1800時間以内にする」と宣言するなど、アグレッシブな組織改革を進めてきています。特に衝撃を覚えたのは「働き方の改革は生き方改革」という言葉です。

寺田:あれはかなり考えてつくった言葉でした。働き方の改革は経営側からすると、生産性を高めることが目標です。けれど、それはあくまでも会社の都合で、個人に何のメリットがあるのかは分かりにくいですよね。ともすれば「そんなの“働かせ改革”じゃないか」という反発だって起きるでしょう。

北野:そうではなく、「個人のあなたにとって大いに関係のある改革なんだ」というメッセージに変えたのが、「生き方改革」という言葉だったんですよね。