「強さと優しさ」は両立するのか

北野:山口さんが経営者としてずっと抱えているテーマはありますか。僕の勝手な印象では、山口さんの人生のテーマというのは「強さと優しさを両立させるってどういうことなのか?」なのかなと思ったりします。まさにこの2つが同居する経営者なのかと思っています。

山口:へぇ。うれしい。「強さと優しさ」は私たちがいつも大切にしているキーワードなんです。

北野:え!うれしい!(笑) 山口さんにとって経営的な強さ、あるいは優しさとは何ですか。僕は、強さとは覚悟を持つことによるパワーではないか、と言っています。技術やスキルは足し算だけど、覚悟は掛け算。一度覚悟すると、ものすごいパワーでものごとが変わっていくから。

 一方で、優しさとは何かを突きつめると、「膨大なプロセスを理解し、許し、応援すること」ではないかと感じているんです。

山口:詳しく知りたいです。

北野:例えば、何年か前に実際にあった出来事でお話しすると、会社が正念場というとき、契約社員の女性から相談を受けたことがあったんです。

 その女性はもともとアルバイトスタッフだったんですが、優秀なので契約社員になってもらっていた。でも結婚してライフスタイルが変わって、「今後の家族設計も考えると、アルバイトに戻してもらいたいと思っている」ということでした。

 契約社員からアルバイトに変更することの影響を、彼女もよく分かっていて、ものすごく言いにくそうにしていました。そのとき、僕がしたことは、0.1秒の瞬発力で、「あなたの選択を応援します」と意思表示することでした。

 「今、大切にしたい生活があるのなら絶対に優先してほしい。それによって迷惑を掛けるかと悩む必要は全くないし、会社もあなたの人生を応援している」と。これを0.1秒で伝えられることがすごく重要だなという気がするんです。

山口:すばらしいですね。

北野:そこにあるのは、相手の意思決定の裏には膨大なプロセスがあったのだろうと想像する力、ある種のリスペクトのようなものです。この、プロセスの理解力は、経営上で発揮される「優しさ」だと最近思うんです。山口さんの場合はいかがですか。

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