2019年1月に世に出た話題の本『天才を殺す凡人』。——。組織の中でいかに「天才」が殺されていくのか、つまりは人間の創造性がなぜ組織で生かされないのかというメカニズムを説き明かしたビジネス書だ。
2019年1月に世に出た話題の本『天才を殺す凡人』。本連載では著者の北野氏が、幅広い業界のキーパーソンと対談。組織やチーム、そして人間に宿る「才能」を生かす方法を探る。
連載5回目のゲストとして登場するのは、途上国発のブランド「マザーハウス」の代表を務める山口絵理子氏。バングラデシュなど、発展途上国で生産したバッグやアクセサリーを日本や台湾の店舗で販売する山口氏。この8月にはレディースファッションブランド「e.(イードット)」を立ち上げ、インドで作った洋服やインドネシアやスリランカのジュエリー、ネパールのストールなどを展開する。単身、バングラデシュを訪れてバッグの生産を始めたという行動派の山口氏は、日本の売り場やアジア各国の工場で働く人々や、自分自身の才能をどのように育て、輝かせているのか。対談前編では、強さと優しさを両立した経営について、2人が語り合った。(構成/宮本 恵理子)

北野氏(以下、北野):今回は、山口さんが代表を務める途上国発のブランド「マザーハウス」の本店にお邪魔しました。
12年前の山口さんの著書『裸でも生きる』(講談社)を当時読んで、衝撃を受けました。
最近発売になった『サードウェイ』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)も読ませていただきました。まさに山口さんが走りながら一つひとつつかんできた経営の思考法と実践が詰まった1冊ですね。
山口氏(以下、山口):ありがとうございます。私も北野さんの『天才を殺す凡人』は、発売直後に読んで深く共感できました。
北野:うれしいな。僕からすると、山口さんは“天才”のモデルではないかというくらい、現場で戦いまくってきた方ですよね。
特にご著書にある創業当初のエピソードは、時に裏切られ、反発も受け入れて……“歩くドラマ”のような方だなと思っていました。『天才を殺す凡人』に共感してくださったのはどういう点でしたか。
山口:やっぱり、ゼロからイチを創り上げるときの孤独や悔しさがすごく分かるなぁって思いました。
マザーハウスを立ち上げた当初は、「私やバングラデシュの生産チームはこんなに頑張っているのに、日本の販売チームはどうして同じ温度で動いてくれないんだろう」というもどかしさがありました。私自身も未熟だったから、不安と焦りから強く叱ったりして……。それで、人がたくさん辞めた時期があったんです。
私がみんなを置いてきぼりにしちゃったんです。どうしたらいいのか分からなくて、ずっと悩んでいたんですが、アパレル大手のワールドにいらした方がマザーハウスに入って、マネジャーとして現場との橋渡しをしてもらうなど、いろいろと試行錯誤を重ねて、少しずつ組織としてまとまっていきました。
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