2019年1月に世に出た話題の本『天才を殺す凡人』。本連載では著者の北野氏が、幅広い業界のキーパーソンと対談。組織やチーム、そして人間に宿る「才能」を生かす方法を探る。

 連載4回目のゲストとして登場するのは藤吉雅春氏。著書『福井モデル—未来は地方から始まる』では、人口減少によって弱体化する地方の中でも、独自の取り組みで逆境を乗り越えた北陸3県の歩みを描いたノンフィクションとして、日本ばかりでなく、韓国などでも大きな注目を集めている。ジャーナリストとして長く活躍し、現在では雑誌『Forbes JAPAN』編集長代理を務める藤吉氏と北野氏が、地方自治体などで才能を生かす方法について語り合う本対談。前編(「鯖江が体現、地方再生に大切な『参加できる余白』」)では福井県鯖江市の成功事例を取り上げて、才能を生かす方法について語り合った。続く今回の中編では組織や集団における「役割」について。藤吉氏と北野氏は、「すべての人にそれぞれの役割がある」と語る。ではそれぞれの役割を輝かせるにはどうすればいいのだろうか。

(構成/宮本 恵理子)

北野唯我氏(左)と藤吉雅春氏(撮影/竹井 俊晴、ほかも同じ)
北野唯我氏(左)と藤吉雅春氏(撮影/竹井 俊晴、ほかも同じ)

北野氏(以下、北野):藤吉さんの著書『福井モデル—未来は地方から始まる』で書かれていた、「人を動かす3要素」という部分がとても興味深いですね。

 「楽しい、おいしい、オシャレ感」。楽しさの演出は、地方行政においては軽視されがちかもしれないけれど、富山市では、「孫とのおでかけ支援」といった取り組みもあるとか。

藤吉氏(以下、藤吉):動物園に祖父母と孫で行くと入園無料になる、とかね。

北野:こういう施策は、短期的なKPI(重要業績評価指標)ばかりを追っていると「入園料収入が下がるじゃないか」となるけれど、実際に来てもらって、園内でアイスクリームを3つ買ってくれたり、お土産のぬいぐるみを買ってくれたり、もしかしたら周辺に泊まってくれたり、というところまで視野に入れれば、確実に収入増のチャンスは広がるはずです。

 けれど、そういった合理的な選択でさえ、大きな組織ではなかなか難しかったりもします。このあたりの意思決定ができた理由は何だと思いますか。

藤吉:1つはリーダーのロジックにみんなが納得感を持てるかどうか、でしょうね。

 高齢者を外に連れ出すことで健康寿命が高まって、それが将来的な医療費の負担軽減にもつながる。そんな多角的なロジックを持って、市長はやるべき理由を伝えていきました。

 それと、やはり「このままではマズイ」という危機感を、みんなが共有していたことじゃないですかね。

北野:危機感の共有は、企業の変革においても重要な要素だと言われていますね。

藤吉:北野さんは、映画『シン・ゴジラ』を見ましたか。

北野:見ました。

藤吉:あの映画を見て面白かったのは、「危機に直面すると、人間の本質や担うべき役割がすべて現れる」ということです。

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