経営者の力が問われる「適切な負け方」

北野:僕は新人時代、経営戦略会議の様子をモニター越しに見る機会があったんです。創立以来の赤字をどう克服するかという切羽詰まった状況で、取締役の一人がものすごく熱弁を振るっていた。僕はその姿に胸を打たれたんですね。
けれど、彼以外の出席者はみんな冷淡で、議論を深めようという姿勢すら見せなかった。
僕はすっかり失望しながらも納得したんです。「そうか、彼らにとっては既にある自分の“島”さえ守ることができればいいんだから、リスクをとるモチベーションが湧くはずがないよな」と。給与もある程度、高いですし。
部門単位での事業の責任者が、会社の存続のためにリスキーな挑戦をする動機はどこにもない。だから、行動するはずがありません。そりゃそうですよね。
田中:だからこそ、今「経営の力」が必要なんです。これまでは事業の力が強すぎたし、事業が軒並み順調な時代はそれでよかったんだと思います。事業を拡大することで会社も成長できたわけです。
ただ、これから問われるのは、新たな島をつくるだけでなく、島と島を融合させたり、あるいは島を削ったりという再構築の力です。会社という一つの大きな物語を再編集する力といってもいいかもしれません。
こういう局面では、「0から1」を生み出す人材と同じくらい、「100から1」ができる人材が必要とされる。それを個々の“島”のオーナーの判断に任せるのには限界がある。もう一段高いところから全社を俯瞰(ふかん)する経営層が戦略的に意思決定しないといけないんです。
北野:「適切な負け方」の学習は、これまでほとんどなされていなかったのでしょうね。人口増の時代には、10戦7勝くらいが平均だったけれど、人口減少時代には良くて3勝7敗くらい。プロ野球の常勝チームと弱小チームが、全く異なる戦術で戦うのと同じように、今求められている経営の舵(かじ)取りは、昔と違うんだと、改めて認識しないといけないですね。
半分笑い話なんですが、今発表されている日本の上場企業の中期経営計画の売り上げ目標値を足すと、GDPを大幅に上回る数字が出ると思うんですよね。つまり、実態以上にすごい高い目標を置かざるを得ないってことですよね。より現実的な目標設定をすべきなんじゃないかな、と感じています。
ところで、田中先生は『天才を殺す凡人』は読んでくださったんですか。
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