「新規事業」と呼ぶことのデメリット

北野:まさに『天才を殺す凡人』でいう、創造性を重視するタイプと、再現性を重視するタイプという感じです。ただ、「変われる」というのは希望が持てますね。失敗の捉え方を変えるために、一番有用な経験は何でしょう。

田中:失敗の捉え方を変えるためには、まず数多くの失敗を経験することです。中でもオススメは「新規事業の立ち上げ」です(笑)。

 日本企業で新規事業の立ち上げを任せられるのは、大体、既存の花形部門にいるエース級のミドルマネジャーです。彼らが新規事業部門に着任して最初に経験する思考の変化は、「他責」なんです。

 なぜなら、彼らは既存事業で輝かしい成果を上げてきたエースです。ほとんど大きな失敗経験をしないまま新規事業部門に異動します。それが、新規事業を始めた途端にうまくいかない。すると、つい周りのせいにしたくなる。

 失敗の原因帰属の矛先となるのは大きく3つあって、「経営」「部下」「既存事業」です。新規事業には既存事業では当たり前のようにあったものがとにかくない。そういう環境の中で、経営陣にビジョンがない、任せられる部下がいない、既存事業の理解が足りないなど、うまくいかない原因を「自分の外」に求めてしまうのです。

 ちなみに余談ですが、「新規VS既存」という対立構造が組織内の不毛なあつれきを生んでしまうことはよくあります。だから僕は、本当に新規事業を成功させたいなら、「新規事業」と呼ばない方がいいんじゃないかと思っています(笑)。

 だって、「私は既存事業をやっています」なんて言う人はいないですよね。「新規」という光を当てるから、「既存」という影が生まれてしまう。

北野:納得できます。大企業からすると、新規事業が成功したとして、その財務的なインパクトはたかが知れている。だからそもそも応援する構造にはなりにくい。

 「新規事業の財務インパクトは最後に訪れるので、最初からそれをKPI(重要業績評価指標)に据えるとうまくいかないですよ」という論理は、『天才を殺す凡人』でも書いたつもりです。

田中:僕たちも、企業の中で「新規事業が生まれやすい条件」を探っているのですが、いわゆるボトムアップ型の提案やプレゼンコンテストからは成果につながるようなアイデアが出にくいことが分かっています。

 もう少し具体的に説明すると、新規事業を担当する人には、会社から指名で異動させられた人や、自分で手を挙げた人、社外から転職してきた人など、何パターンかあります。このうち一番成果を上げるのは、「会社から指名で異動させられた人」です。

北野:なぜでしょう。

田中:会社側が「こういうドメインで、こういう事業サイズの新規事業を君に任せる」と明確に伝えて任せた新規事業ほど、高いパフォーマンスが出やすいということです。

 社員発のボトムアップ型な新規事業がなぜうまくいかないかというと、経営陣の想定する新規事業と社員側の想定する新規事業の定義がそもそもズレているからです。
 これだけ新規事業が大事だと言われていながら、意外に「自社にとって今必要な新規事業とはどのようなものか」を言語化している会社は多くありません。

 そういう状況下で、ただ新規事業プランコンテストのようなイベントを企画しても、うまくいきません。社員側は「自分はこんなに革新的なアイデアを提案したのになぜ会社は認めてくれないのか」という不満が募ってしまう。一方、経営陣も「いつまでたっても小粒なアイデアしか出てこない」と嘆き節になってしまう。

 実際、経営陣と社員との溝が深まるばかりで、こんなことなら企画しない方がよかった、と事務局が匙(さじ)を投げてしまうケースもあるようです。

(対談中編は、2019年8月2日公開予定)