「業績目標志向性」と「学習目標志向性」

田中:たくさんありますが、個人の資質という面では、「学習目標志向性」の高さは、重要な要素になると思います。
仕事上の課題に対して、どういう目標を設定するか。この違いで、人は2つのタイプに分かれます。1つは「業績目標志向性」と呼ばれるタイプで、目に見える成果や業績に重きを置いて、それを達成することで喜びや充実感を得るタイプ。
もう1つが「学習目標志向性」で、こちらは結果ではなく、プロセスで喜びを味わうタイプ。もちろん成果も重要ですが、本人にとっては、それ以上に成果につながる道のりで体験する試行錯誤や視野の広がり、自分自身の成長に楽しみを見いだす。「見たことのない景色を見たい」というのが、このタイプの欲求です。
北野:冒険漫画の主人公みたいですね。
田中:そうかもしれません(笑)。面白いことに、この2つのタイプでは仕事の選び方も違ってくるんです。
業績目標志向性の高い人は成果を出すことを第一とするので、「自分が今、持っている能力やスキルでクリアできる仕事」を選ぶ。つまり過去に成功体験のある仕事を好んで選ぶんです。
北野:その方が効率よく達成感を得られるから、ですか。
田中:そうです。例えば、既存事業である一定の成功パターンが決まっているようなプロジェクトには率先して手を挙げて、さらに効率化していこうと考えるタイプですね。
一方で、後者の学習目標志向性の人たちは、「やったことがない仕事」を積極的に選ぼうとします。見たことのない世界を見にいこうとする。その冒険によって自分がどう変化するのかに本質的な喜びを感じるタイプです。
どちらがいいとか、優劣をつける比較ではありませんし、事業がうまくいっているときには何の問題もありません。ただ、失敗したときの受け止め方に大きな差が出てくる。
失敗という壁に直面したとき、業績目標志向性タイプは「自分の能力では超えられない」と、それ以上は進もうとしなくなります。しかし学習目標志向性タイプは「あ、やり方が間違ったんだ」としか思わなくて、ほかのルートを探しにいきます。
職場でよく起こりがちなのは、業績目標志向性の高い上司が部下の失敗を責めるときに「お前はだからできないんだ」と人格や能力を否定して、次のチャレンジへの意欲を失わせてしまうことです。
ここで重要なことは、業績目標志向性も学習目標志向性も様々な環境要因によって後天的に変化し得るものである、ということです。僕の研究でも、経営層や上司の関わり方次第で他方の志向性を持てるようになることが実証されています。
業績目標志向から学習目標志向へと変われる最大のチャンスは、実は「失敗」したときなんです。失敗の原因が自分の能力ではなく行動にある、ということをいかに意味づけできるか。
一見簡単そうに聞こえる話ですが、一種のバイアスなので本人だけで意味づけし直すことは難しいものです。そういうときこそ本人の状況をよく理解している上司の出番ですね。
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