経営者は「上がり」のポジションなのか?

田中:日本企業の昇進システムは「卒業方式」といわれていて、プレーヤーとして優秀だと認められれば、プレーヤーを卒業してマネジャーになります。そして優秀なマネジャーとして認められたら、今度は経営者になる。
プレーヤーとマネジャーと経営者。それぞれ役割が異なるわけですから、当然、求められる能力も違う。ですから、その役割に適した人材かどうかを評価するには、本来、異なる物差しが必要です。
それなのに、「優秀さ」という曖昧かつ共通の物差しで評価して、卒業方式で段階的に昇進させようとしているのが実態です。これでは、経営が「上がりのポスト」になってしまうのも無理もないでしょう。
北野:おっしゃる違和感は、今になってよく分かります。僕がかつて働いていた大企業でも、「経営人材を育てたい」という話がよく出ていました。それにもかかわらず、実際に昇進するのは現場で利益を稼ぐスタープレーヤーばかりでした。
大企業の一事業の場合、現場のマネジャーに求められるのは、せいぜいトップライン(売上高)を伸ばすことと、販管費をコントロールするくらい。けれどこれが経営者となると、P/L(損益計算書)の最終利益と、キャッシュフローと、当然ながらB/S(貸借対照表)などの観点から、経営の数字を扱えないといけません。
ビジネスモデルそのものを通して経営人材が育ちにくい。これは現場の延長線上で、経営人材が育たない理由だよな、と思っていました。
どこの組織でも「彼はマネジャーになったけれど、全然向いていないよね」といった批判が生まれがちです。けれど、それって習ったことがないんだから当たり前ですよね。本当は「マネジャーたるもの」「リーダーたるもの」と、ゼロから学ばないといけないのに、優秀なプレーヤーならそのまま優秀なマネジャーになれると思ってしまう。
田中:本気で経営層を育てようと思ったら、計画的に前倒しして、早い段階から「経営層になるために必要な特別な育成」をする必要があります。経営層に求められる能力とマネジャー職に求められる能力は本質的に違い、育成に要する時間も難易度も全く異なるからです。
数年前に、日本を代表する大手企業の経営人事で、32人抜きで50代半ばの社長が抜てきされたことがニュースになりました。この時、新社長は会見で「青天のへきれき」とおっしゃっていたんです。
もちろんこれは、彼の前を行く32人に敬意を払うためのリップサービスだったのかもしれません。
けれど、何万人もの従業員を抱える組織のトップに就く当人が、「予想もしていなかった」と本気で思っているとしたら、かなり危機的な状況だと思いませんか。そんな船頭が率いる船に誰が乗りたいと思うのでしょうか。
グローバル企業では、社員の中から経営人材を早期に選抜して、戦略的に育てるのが一般的です。それに比べて、日本はかなり取り掛かりが遅い。30代後半で第1次選抜をやっているようでは、あまりにも遅すぎるんです。
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