「反応を楽しむ」体験を

北野:僕が博報堂にいたとき、2年に1回くらい、フロア全体の席替えをしていたんです。「忙しいのに」とみんな文句を言っていましたが、経営する立場になって思うのは、たしかに無理やり流れをつくることで、活性化につながっていた部分はある。クリエーティブを重視する会社はすでに“動き”の演出を取り入れているのでしょうね。

 ほかに、流れを生み出すために始めるといいことはありますか。

為末:個人でできることとしては、「反応を楽しむ」体験を積極的にするといい。

 人間の行動は自由意思によるものはほとんどないと思っていて、大部分は“反応”です。

 ゲームが楽しいのも、植物を育てて楽しいのも、「こうやったら、こうなった」という反応をつかめるからです。反応を楽しむクセをつけると、自然と周りに変化が生まれやすくなるんじゃないかな。

北野:確かに、子どもは動くものが大好きですよね。「動きを面白がる」という感覚は、我々の原始的な欲求に組み込まれているのかもしれません。

為末:全くコントロールが利かない動きはつまらないんだけれど、「ちょっと働きかけてみると、ちょっと影響を与えられる」くらいが面白い。全部思い通りになったら、それはそれでつまらないから、影響を及ぼせる範囲と、そうでない範囲の絶妙なバランスが恐らく大事なんでしょうね。

北野:為末さんの卓越した観察力はどうやって磨かれたのか、気になります。ビジネスにもすごく生かされる技術ですよね。

為末:観察は確かに好きかもしれません。うちのスタッフによく伝えているのは、「花火が上がったとき、花火を上げる人だけ見ていちゃいけないよ。花火を見ている人をよく観察しなさい」と。全体を俯瞰(ふかん)する意識付けを日ごろからすることで、身につくものだと思います。

北野:なるほど。俯瞰(ふかん)して観察する意識を持つ、と。

為末:物理的なポジションの取り方も、無意識に気をつけています。話をする相手をよく知るには、正面に向かい合って座るより、カウンターで横並びに座るほうがいい、とか。向き合うと綱引きになっちゃうけれど、横並びだと目線の方向が同じになるから敵対しづらくなるんです。

 スポーツの世界でも「ロッカールームのベンチにどう座るのが、その後のパフォーマンスにとっていいのか」といった議論があります。やっぱり人間は動物だから、物理的な位置取りに、かなり影響されるのでしょうね。

北野:面白いですね。最後に、個人が自分の才能を育てるためにできることは何か。改めて教えてください。

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