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「天才は触らない、秀才は型をはめる」

 

為末:よく言われるのは「天才は触らない、秀才は型をはめる」。才能を備えた選手は、細かい指導はせずに放っておいて、努力で伸びる選手には正しい型を与える、という意味ですね。

 しかしこれも難しくて、これをチームの中でやろうとすると、“どっちに合わせるか”という問題が起きてきます。つまりチームの練習を、全体できっちりやろうとすると、大部分の選手が伸びるがイチローは育たない。

 反対に自由に任せると、イチローは生まれるけれど、全体が育たないというジレンマがあります。

 日本のスポーツ育成はどちらかというと、前者のパターンが多いですよね。その結果、たった1人の天才アスリートよりも、“上の中”レベルの選手がたくさん育つ。

 実際、僕が現役の頃は、陸上の長距離の世界トップ100には、めったに日本人選手は入ってこないけれど、200位から500位のゾーンには、日本人が一番多かったんじゃないかな。箱根駅伝の中央値に集約されているんですね。

北野:中央値に寄せる育成法だと、なかなか天才は育たなそうですね。

為末:そういう意味で、才能が生かされる組織というのは、えこひいきと捉えられない程度に、うまくメリハリをつけて育成することが大事なんです。

 誰か1人が爆発的に伸びる事例をつくることが、全体の伸びをけん引する兆しにもつながるはずです。

北野:才能の育て方については、組織も学習していくものだと感じています。

 最近、僕が所属するワンキャリアに対して、社外の人が「北野さんを自由に活動させていて、いい会社ですね」とおっしゃるんです。でも、うちだって以前は全然そんなことはなかったんです。

 本の出版を相談しても、ダメと言われたくらいですから。それでも反対に屈せず、僕はそれを突破して、結果的に本は売れ、会社のブランディングにも貢献できました。

 すると「社員は自由にさせたほうが、パフォーマンスが上がる」と、会社側も学習してくれた、という実感があるんです。つまり「組織は学習する」んですよね。

為末:似たようなことは、スポーツでもあるかもしれないですね。

(対談中編は、2019年7月12日公開予定)