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「早すぎる最適化」がアスリートの才能を殺す

 

北野:今回、ぜひ為末さんに聞きたいと思っていたのが、トップアスリートの世界における、「才能の生かされ方、殺され方」です。両者を分けるのは何だと思いますか。

為末:まず僕らの世界は、才能が見えるのが早くて、10歳くらいで明確に才能を認定されることがあるんです。そこで起きてしまうのが、「早すぎる最適化」という問題です。

 例えば野球で説明すると、小・中学生の段階では、まだ守備がうまくない。だから試合で点数を稼ぐには「とにかく当てろ」と、軽打で相手のエラーを誘う指導に偏ることがあるんです。

 すると、選手の打ち方そのものが軽打に適応してしまって、あとで高校・大学と進んで全体のレベルが上がってきたときに、「長打を狙え」と言われても、なかなか飛ばせなくなるんです。つまり、レベルが低い段階でその状況に適応した戦術に偏ることが、良からぬ癖を植え付けてしまう。

 短期的なビジョンしか見えていない指導者によって、将来の才能を殺してしまうという問題は、スポーツの世界では起こりがちです。

北野:ビジネスの世界も同じだと思います。SNSの時代に頻発しているのは、本当はすごく優秀なビジネスパーソンが、何かのきっかけでツイッターなんかでちやほやされて、狭い世界の中で有頂天になってしまう。

 調子に乗って独立するけど、実はビジネスの本流では全く太刀打ちできない、というケースです。

 ベンチャー企業でも、渋谷を中心とした“西海岸”では、かなりいろんなサービスが導入されて、その世界で最適化してしまった結果、本当に事業を拡大するなら獲得しないといけない丸の内かいわいの大企業、いわゆる“東海岸”の顧客にとって、不便なものになってしまっていたりする。この「東海岸の壁」に悩むベンチャー経営者は、結構いる気がします。

為末:経営者の視座の高さが求められるところでしょうね。

 スポーツの世界における「才能の殺され方」にはもう1つあって、過剰なアドバイスを浴びてしまうという問題です。

 若い才能を見つけたとき、影響を与えたがる大人がたくさん現れるんです。みんな、言いたいわけですよ。「オレは錦織圭に教えたことがあるんだ」って。僕だって「桐生に教えたことあってさ」と言いたいわけです(笑)。

 そうやって、いろんな大人がいろんなことを言ってくる。大人なら、ある程度耳を塞ぐ技術も身につけているけれど、子どもは素直だから、全部聞いて混乱してしまう。統合されていないアドバイスほど、成長を阻むものはないと思うんだけど、これは本当にありがちですね。

 本来は「自分なりのやり方を深く掘り下げたあとに、視野を広げる」という順序がいいと思うけれど、先に視野が広がってしまうと、伸びるはずだった才能も伸びなくなる。

北野:為末さんがそうならずに才能を伸ばせたのはなぜですか。

為末:僕の場合は、幸運にも、長期的な成長を計画できる指導者に恵まれたことが大きいですね。あとは競技を変え続けたのが良かった。同じ競技だけをやり続けていたら、壁はもっと感じたかもしれない。

北野:逆に「才能を生かす環境」の条件は何だと思いますか。