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スポーツも企業再建もまずは“兆し”から

 

北野:先日、事業再生に強い有名投資ファンドの経営者とお話をさせていただいて、いくつかの具体的な企業名を出して、「この中で再建できそうな企業はどれですか」と聞いたんです。

 中には東京電力や東芝なども含まれていたんですが、その方は「この2社なら東芝かな」とおっしゃった。理由を聞いたら、決め手は“事業を分割して、再建に向けた改革に着手できるかどうか”ということでした。

 つまり「東京電力は、事業そのものが巨大な1つの岩のような塊で、分割しようがありません。一方で東芝は、全体で見ると大きな会社だけど、複数の事業の集合体なので、事業単位で切り分けて変革することができる」というんです。

為末:規模の単位なんですね。小分けにできるかどうか。

北野:「何人くらいまでなら、変革できるんですか」と聞いたら、「数千人単位なら可能だと思う。でも万単位になると難しい」と。

 だから、日本全体を一気に変えるのは難しくても、東京都の渋谷区の○○エリアから、とか、小さな単位に小分けして着手することが、1つのアプローチなのだなと思いました。

為末:その場合、どこから着手するといいんだろう。

北野:それも聞いてみました。「やる気があるところから着手する」というんです。実際に動く人たちの士気が高い場所から変えていく。

為末:競技者がチームを変えていくときも、それに近いかもしれないな。

北野:スポーツの世界で、弱いチームが強いチームに変革していくときのきっかけは何ですか。

為末:それは“兆し”だと思う。変われる兆しが見えた瞬間に「あれ、もしかして?」と全体の空気が変わっていく。「昨日そうだったからといって、今日もそうだとは限らない」と思えるようになることが重要なファーストステップになるんですよ。

北野:その兆しを生むのは、やはり成功体験ですか。

為末:そうですね。人間が一番変われるのは、「隣の奇跡」を見たときなんです。「えっ、昨日まで一緒に同じことをやっていたのに、そうなっちゃったの!?」という変化を間近で目撃すると、「もしかしたら自分もなれるんじゃないか」という希望が生まれる。

 だから組織を変えるときも、「まずは1つの奇跡を起こす」のが早い気がします。誰か一人にターゲットを絞って、成長機会を与えて育成する。

 そのときはえこひいきに思われたとしても、長い目で見て「順番が先だっただけ」と説明できればいい。同時にみんなを変えようとするのは難しい気がするな。