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日本企業には混沌が足りない!

 

為末:組織を生体論として語るとき、僕はよく「混沌と秩序」という観点で考えるんです。

 1つの生体が形づくられるとき、あるいは生体が群れを成すとき、まだ何も定まっていないカオス(混沌)の状態から始まって、だんだんと秩序立っていく。

 カオス状態でものごとを進めるには、エネルギーを要するし、決して生産性は高くないけれど、秩序が整ってくると、決まったルールに従えば効率的にものごとが進むので、エネルギーはそれほど必要ではなくなる。しかし活性度としては低下していく。

 おそらく、今の日本の企業の多くが直面しているのは、「秩序のある不活性状態」ですよね。「秩序を重視してやってきたけれど、このままでは成長が望めない。もう少しカオスに戻って、個別の細胞の活性化で戦おうよ」といった課題を抱えているんじゃないかな、と。

 ただ、長らく秩序立った世界に慣れきって「Aと入力されたら、Aを出す」というルールにのっとって働いてきた人にとっては、急に「これからはカオスでいこう」と言われても苦しいですよね。

 個々のパワーで戦える自信のある人たちは、北野くんの意見によろこんで賛同すると思うけれど、完全に秩序立ったプログラムに適応してきた人たちは、「ここから外に出されたら生きていけない」と不安しか抱かない。「iPS細胞に戻れ、と言われても……」と(笑)。

北野:どうやったら戻れるんでしょうね。米ハーバード大学ビジネススクールのジョン・P・コッター名誉教授が提唱した「企業変革の8段階」で第1に挙げられたのは、「危機感」です。

 危機感が共有されなければ、どんなことを言っても組織や社会の変革は起きない、と。そういう意味では、ある日突然、ポンと山の上に置かれるような経験が、人を変えると言えるのか。

為末:「人は変われるか」という問いについて考えると、やはり危機感は大事でしょうね。もう1つ、重要だと思うのは「自分がどんなミームを持っているのか」を理解すること。

 自分が伝えて広げていきたい価値観が何なのか分からなければ、どこに所属したらいいかも分からないし、行動の基準も決められない。

北野:自分がどんなミームを持っているか。それはどうやったら分かるんですか。

為末:1つの環境から一度も出たことがないと、見えてこないのかもしれない。会社から与えられるミームに違和感を抱かなかったとしても、実は自分自身が根源的に持っているミームは別にある可能性がある。でも、それを試す機会がないから、確かめようがない。

 最初は会社から与えられるミームに少し違和感があっても、ずっとそこにい続けるうちに、違和感すら抱かなくなって、いつの間にか諦めてしまう。

北野:なるほど。「組織は変われるか」という問いについてはどうでしょう。