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ビジネスの根底に宿るのは「愛」?

 

北野:為末さんが、自分よりも優れたアスリートを応援したくなる。その気持ちの根底には何があるのか、すごく興味があります。というのは、実は僕がこれから書きたいテーマの1つが「経営における愛」なんです。

為末:壮大ですね。

北野:日ごろ、いろんな起業家と話していると、奥の奥で考えているのは意外に「愛」なんだなと感じたことがきっかけです。

 その人のポテンシャルが生きる場所を探そうとしたり、シンプルに「その人が世の中に必要とされて幸せになるのはいいことだよね」と行動を決めたり。実はビジネスを動かす原動力として、人間愛が働いているのではという仮説を持っています。

為末:その愛というのも、実は無意識のうちに選択的になっているのかもしれませんね。リチャード・ドーキンスというイギリスの生物学者が著書『利己的な遺伝子』(紀伊國屋書店)の中で、人類が文化を形成して後世に伝える遺伝子のような情報を「meme(ミーム)」と名付けて概念化したことは有名です。

 彼によると、我々は遺伝子を伝え残す箱舟であり、社会的生物である人間は、特定の文化的な遺伝子をなるべく多く広げて残したいと考え、行動しようとする。

 その手法はまちまちで、宗教の教祖のようにダイレクトに伝えて広げる人もいれば、自らミームを発信するほどの熱意はないけれど、自分と近いミームを持っていそうな誰かを見つけて、共感することでミームを広げていく人もいる。

 加えて、伝えたいミームがあるということは、その半面、排他的になる可能性も持ち合わせている。少し話を広げれば、愛情のホルモンと呼ばれるオキシトシンは、自分と似ていない相手に対しては排他的になるともいわれています。

北野:いきすぎると、文化間の闘争や宗教戦争になるのかもしれませんね。ビジネスの世界でも、新しい価値観を発信しようとすると、“ミームの違い”を感じる場面は多々あります。

 僕は最近、「これからの経営者の役割は、明日会社が潰れても社員一人ひとりが独立して生きていける力を育てることだ」とあちこちで言っています。けれど、これに賛同してくれる経営者もいれば、全く理解を示そうとしてくれない経営者もいて(笑)。

 仲間づくりに近い実感があります。こういった企業間のギャップを、為末さんはどう見ていますか。