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一人ひとりが好きなことを追求できる組織へ

北野:僕も最近、ささやかながらエンジェル投資を始めまして、「誰かの人生の応援のためにお金を使う」という行動の豊かさを知ったばかりです。中野さんが若手アーティストの活動を応援しているというのも、そういうお気持ちからなのでしょうか。

中野:そうですね。僕はいわゆる投機目的のアートビジネスには一切興味はなくて、僕にとってアートは、そこにいて眺めているだけで思わず笑顔になれる“赤ちゃん”と同じような存在なんです。

 「かわいいなぁ」という気持ちで、そばに置いておきたいだけで、「こいつが大きくなったら……」と見越してお金を出すようなことはしない。アートで稼ぐ気はないけれど、この世からアートがなくなるのは嫌だから、できるだけ良い状態で保存できるようにしたい。保存するには空間が必要になるから、結果として、寺田倉庫の新しいビジネスモデルにもなったという話なのです。

北野:愛情があってのビジネスだから、きちんと顧客にも伝わるのでしょうね。

中野:いずれはどんな人でもアートに親しむ世の中になるといいなと思っています。5万円でも10万円でも、ちょっと奮発してお気に入りの絵を買ってきて「さて、家のどこに飾ろうか」と考えるときの心の充実感というのは格別ですよ。

 この新型コロナの影響で在宅勤務が増え、自宅から会議に出席する機会も増えましたが、僕が話している画面の背景には壁に飾ったアートがいつも映っているはずです。決して広くはない独り住まいの家ですが、絵を1枚飾ることで文化性や暮らしに宿るんです。

 僕は学生時代から、食うものを減らしてもいいから花や絵を買うことを優先してきたのですが、文化性にこそ人間の本質が表れると思っています。これからはますますそういう時代になるでしょう。

北野:人々の行動や生活が大きく変わろうとしている今だからこそ、何を大事にしているのか、個人も組織も価値観が問い直されているといえそうです。改めて、中野さんが考える「才能が生きる組織の条件」とは。

中野:一人ひとりが追求したい好きなことができる場所であること。仕事だからと無理やり作業を強いるところでは、才能は生かされない。作業が好きだという人もいますが、それはその人にとっての才能。嫌々仕事をする人をできるだけ減らすために頭を使うのが経営者の仕事だと思いますし、人がやらなくていい仕事はどんどん切り離して効率化していく。すぐに100点満点は無理でも、60点、70点と目指していく。その努力を惜しまないことで、才能を生かせる組織へと近づくはずだと思います。

北野:貴重なお話をありがとうございました。

(構成:宮本恵理子)