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会社とは単なる箱、幸せに働けなければ意味がない

北野:共感します。僕も取締役という立場ですので、今回の新型コロナの影響にどのように対処するか、その経営判断についてはやはり考える機会がありました。おっしゃるように、会社が万が一潰れたとしても、人が潰れなければいいじゃないかという思いに至りました。もう一度、一緒に始められる仲間さえ元気でいてくれれば、事業はまたゼロから作り直せばいいから、と。

中野:人は肉体的に死ぬだけでなく、心が死ぬこともあるんです。無理して会社を維持することは、仲間の心を救うことになるのか。よく考える必要がありますね。人間、生きようと思えば、自分で畑を耕して食べることもできるし、どうにかしてたくましく生きられるものですよ。

 僕の知人で、昭和28年にお店を始めた夫婦がいましてね。7店舗まで伸ばしていたんですけれど、今回の新型コロナの影響で「売り上げ激減で潰れそうだ。どうしたらいい?」と相談を受けたので、僕は「本店だけ残して、残りの6店舗は従業員にあげてしまえば」と言ったんですよ。「この年になって夫婦でまた一緒に工夫できるって幸せなことだよ。店を出したばかりの頃の君たちは、貧乏でも本当に楽しそうだったよ」ってね。

北野:中野さんは寺田倉庫のCEOに就いた後、従業員の数を大胆に削減したことで話題になりましたが、それも「現状維持が本当の幸せか」と問うた結果だったのですね。

中野:会社とは単なる箱であり、そこで人が幸せに働けなければ意味がない。そうではない状態のまま維持しても、やがて幽霊屋敷になり、魑魅魍魎(ちみもうりょう)が宿り、世の中のためにもならない。ならば一度、箱をきれいに片付けて更地にして、日の光と風を注げば、気持ちのいい空間はよみがえる。そこからまた始めよう。そんな気持ちでした。

北野:「会社は売上高100億円くらいがちょうどいい」ともおっしゃっていますが、これも「経営が健全なうちに渡せば、雇用を守れる」という意図なのですよね。組織が大きくなり過ぎて従業員が身動き取れなくなる前に、リリースするという。

中野:器が大きくなり過ぎると、どうしても器を維持するための仕事が増えてしまう。大きくなることが幸せにつながるとは限らないと僕は思います。僕が小さい会社がいいと思うのは、こうやってたわいもない話をしながらも一生懸命同じ思いを磨き上げていける仲間と働けるからです。

 たくさん稼いだところで使い切れないですし、金というものは使い過ぎるとぜいたく病で体を壊してしまいますから、僕は必要最低限で十分。お金以上に大事なのは、一緒に仕事や人生を楽しめる仲間です。それも1000人も集める必要はなくて、身近に10人いれば十分ですよ。