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全ては「因果応報」

中野:因果応報、という考え方は特に好きですね。よいことも悪いことも、自分の行いの結果でしかない。だから、自分自身の価値観に照らし合わせ、自分が正しいと信じることを積み重ねていきなさい。これは亡くなった祖父から繰り返し言われた教えでもあるんです。

北野:その価値観がきっと、経営者としての人材育成や組織のつくり方にも生かされてきたのだと想像します。実際に社内でどのようなコミュニケーションを中野さんがしてきたのかお聞きしたいのですが、例えば、業務の指示をするときに心がけていたことはありますか。

中野:方向性を示して、後は任せます。「いつまでに」と細かく納期を指定することもしません。逆に、「いつから着手すればいいですか?」といちいち聞いてくるような人とは、一緒に仕事したくないですね(笑)。答えは「今」ですよ。だって3カ月後に僕たちが一緒にいられる保証もないわけですから。

北野:なるほど。時間感覚を共有しているということですね。

中野善壽(なかの・よしひさ)氏
1944年生まれ。伊勢丹、鈴屋、台湾の百貨店などを経て2011年に寺田倉庫の社長に就任

中野:お互いに“期待”を交換し合っているんですよ。僕は彼らにスピード感のある行動を期待するし、彼らもまた僕に早いジャッジを期待している。同じ組織で働く関係とは、つまり、“期待をし合える関係”だと僕は思っているんです。相手に期待をし、相手の期待に応えるから、信頼関係が生まれ、お互いに成長していけると思いませんか。互いに高め合う関係において、上司・部下のような上下関係を重視しても意味がない。

北野:「僕は仕事ができる人にしかお願いしないからね」と、社内でよくおっしゃっていたそうですね。

中野:はい。「僕はあなたに期待している」という意味です。

北野:例えば、採用面接のときにはどういうポイントを見ていたのですか? どんな質問をしましたか。

中野:何も質問しないです。ただ、僕の考えをペラペラしゃべるだけ。だって僕と一緒に働いてくれる人を探しているんだから、僕がどういう人間かを少しでも分かってもらって、嫌だったら来てもらわないほうがいいでしょう。だから、僕が相手を面接しているのではなくて、僕が面接してもらっているんですよ。

北野:「雇う・雇われる」という主従関係とは捉えていないんですね。

中野:はい。「転職したければ、いつでもどうぞ」と言ってきましたし、いつでも「去る者追わず、来る者拒まず」の姿勢です。僕が代表を務めている東方文化支援財団の会議は、定例の日時だけ決めて、誰でも参加歓迎にしているんですよ。

北野:「去る者追わず」の姿勢もどこか仏教っぽいですね。僕は最近、座禅の習慣を始めたのですが、どうしても頭の中に雑念が浮かんでくるんですよね。そのときに「雑念を消そうとしなくていい。雑念を追わず、雲のように流れていくのを待てばいい」と聞いて、それならできそうだなと思って。

 「追わない」だけで、自然と心が静かに整っていく感覚が分かってきたところなんです。中野さんも毎日ご自宅の中でお参りの一言を唱える習慣を続けていらっしゃるとか。

中野:はい。朝晩毎日必ずやっています。ごく簡単に「今日もありがとうございました」「明日も頑張ります」というものですが、毎回きちんと名前と住所を言って、感謝の気持ちを口にするようにしています。

 お参りのときに鏡に自分の顔を映すのですが、「今日は汚い1日を過ごしてしまったな」と感じる日の顔は、やっぱり汚く見えてしまう。まさに心の鏡です。短時間でもいいから、自分の心の状態を観察する習慣を持つのはお勧めですよ。