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大人になるにつれて感性はそがれていく

中野善壽(なかの・よしひさ)氏
1944年生まれ。伊勢丹、鈴屋、台湾の百貨店などを経て2011年に寺田倉庫の社長に就任

北野:僕は渋谷で働いているのですが、周りで工事がどんどん進む様子を眺めながら、もっと美しい方向へ再開発が進むといいのになぁと感じています。

中野:仮に数字だけで計画したとしても、容積率や建ぺい率いっぱいにテナントを詰め込む場所をつくったところで、全床売れる時代ではないんですよ。

 1000坪いっぱいに土地を使って坪単価1万円で売るのと、心地よさを重視してゆとりを持たせて300坪を単価4万円で売るのと、総売り上げはどちらが高いのか。後者の収入が断然いいわけです。つまり、大事にすべきは付加価値。付加価値とは感性に訴えられるものです。

北野:感性はどうやったら身に付くものでしょうか。

中野:感性は特別な人だけの持ち物ではなく、本来は誰もが身に付けているものなんです。生まれたばかりの子どもが最も感性に満ちていて、若いほど感性は豊かです。年齢を重ね、いろいろな余計な情報に触れるうちに、少しずつ感性はそがれていってしまいます。

 だから、私はできるだけ若い人と接して、若い人たちから学ぶようにしているんですよ。

北野:中野さんが今70代だと聞いて、驚異的な若々しさを保っていらっしゃるなと感じていたところです。どうしたら、感性を保つことができるのでしょうか。

中野:感性とは「今この瞬間を感じることで生まれる反応」です。感性が鈍るのは、過去にとらわれるから。今、頬(ほお)をなでる空気を感じようともせず、過去のデータをめくっているから、感性は発動されないのです。

 「どうしたら感性を保てるか?」という問いの答えは、「心配しないこと」ですね。過去にとらわれない。そして、明日はどうなるか分からない。今しか感じられないことを吸収し、今できることを精いっぱい行動するのみですよ。

北野:なるほど。心配しないことか。確かにそうかもしれないなぁ。

中野:以前、ヨーロッパの中世の騎士の鎧(よろい)を着たことがあるんです。そしたら、とにかく重くて、視界も狭い。あれじゃあ身動き取れなくて、裸同然だったモンゴル兵のほうがはるかに実戦に向くと思いましたよ。

 人間、守りに入ると身動きが取れなくなる。会社も大きくなるほどに鎧を重ねて、俊敏さを失っているところが多いですよね。頑強な守りに徹しているようで、実は安全ではない。人間も会社も、年を取るほどに身軽にならないといけない。いつもそう思っているんです。