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「才能を殺す組織」と「生かす組織」は何が違うのか。新卒採用のクラウドサービスを手掛けるワンキャリア(東京・渋谷)の取締役で作家の北野唯我氏が対談を通じて探っていく連載。今回は、寺田倉庫を大改革した同社前社長兼CEO(最高経営責任者)の中野善壽氏に話を聞く。

中野氏は、事業売却を通じて企業向けの“場所貸し”を主とした従来型の倉庫業から、高級ワインや絵画の保管など消費者向け事業を手掛ける新しいビジネスモデルへと会社を変革。その過程で1000人ほどいた社員は約10分の1に減った。

新型コロナウイルスの感染拡大が続き、人々の価値観が大きく揺らぐ中、「会社」という組織の在り方も変わっていく可能性がある。前編は中野氏が考える「気持ちのいい組織」とは何かを聞く。(後編は4月30日掲載予定)

ワンキャリア取締役の北野唯我氏(左)と寺田倉庫の前社長兼CEO(最高経営責任者)の中野善壽氏(右)(写真:竹井俊晴、以下同)

北野唯我氏(以下、敬称略):今日は“破格の経営者”として知られる中野さんとお話しできるのを楽しみにしていました。対談場所としてご指定いただいたのは、昨年6月までCEO(最高経営責任者)を務めていらっしゃった寺田倉庫の特別なイベントスペース。船をモチーフにしたデザインが開放的で、とても気持ちのいい空間ですね。

中野善壽氏(以下、敬称略):ありがとうございます。「気持ちがいい」と感じられるかどうかは、個人の人生においても会社経営においても最重要だと僕は思っているんですよ。

北野:なるほど。いきなり本質的なお話になりそうでワクワクしています。会社も「気持ちがいい」と感じられることが一番大事だ、と。

中野:そうです。そこで働く人やお客様が「この会社は気持ちがいいな」と感じられることが一番。この点を軽視して、数字だけ追っても長続きするわけではありません。

 立派な建物や土地を所有していたとしても、それが自動的にお金を生み出すのではない。土地や建物が気持ちのいい状態に保たれ、運営されることで結果的に数字が積み上がるのです。

北野:僕が考える「気持ちのいい会社」は、2階建てのイメージです。1階は、身体的感覚に基づく評価で、例えば「広々として心地いい空間」「働く人たちの心身の健やかさ」といった五感で感じられるような気持ちのよさ。2階は、より精神的な思想の部分で、その会社が大事にする価値観や未来像といったものです。

 現実にはこのどちらも大事にできている会社は減っているように思えてならないんですよね。拙著『分断を生むエジソン』にも書いたのですが、悲しいことに、これから先、凱旋門のような思想を象徴するような建物は生まれないだろうと思うんです。例えば「渋谷を再開発しましょう」という計画が立ったときに、最も重視されるのは土地対面積当たりの単価であって、結果として似たような高層ビルが林立していく。千年後に価値を生む建物をつくる、という思想にはならない。

中野:数字の組み立てだけから生まれる高層ビルなんて、宇宙から見たらくずのようなものですよ(笑)。日本だけでなくアメリカや中国も、ここ30年で同じような建設をしてきましたが、それが本当に人々の幸せにつながっていたのか、疑問です。

 一見すると華やかな街のようで、それが象徴するのは「欲の塊」。そこに引き寄せられるのは、同じく欲に憧れる者だけで、その集団で形成されるにぎわいを「パワーのある街だ」と評価してきた。しかし、そこで過ごす時間を「心地いい」と感じている人はどれだけいるのでしょう。