「才能を殺す組織」と「生かす組織」は何が違うのか。新卒採用のクラウドサービスを手掛けるワンキャリア(東京・渋谷)の取締役で作家の北野唯我氏が対談を通じて探っていくシリーズ連載。今回は、同連載のスピンアウト企画として2月13日に開催したRaise LIVEの模様をお送りする。
ゲストは、ガイアックスの上田祐司社長。ガイアックスは、自律的に動く個人が集まる「ティール組織」の典型として注目を集めている、極めてユニークな組織運営をしている会社。給料は社員が自分で決め、事業を持って独立することも自由。中編は、ガイアックスが個人がプロジェクトごとに集まる経済モデル「ギグエコノミー」を信じる理由などについて、北野氏が聞く
2月13日のRaise LIVEに登壇したワンキャリア取締役の北野唯我氏(右)とガイアックス社長の上田祐司氏(左)(写真:竹井俊晴、以下同)
(前編から読む)
北野唯我・ワンキャリア取締役(以下、敬称略):これまで話してくださった一連の仕組みも、上田さんが個人の「will(意志)」を尊重する姿勢をよく表していますよね。僕自身が会社のメンバーのwillを育てるために最近意識しているのは、「事後報告で仕事をしてね」と伝えることなんです。
上田祐司・ガイアックス社長(以下、敬称略):いいですよね、事後報告。
北野:意欲的で主体的に動ける人は勝手に自分でやっちゃうし、取り組んでいる仕事に関して自分が一番分かっているはずなので、僕が下手に手を出さないほうがいいんです。マネジャーが事前報告を求めるとスピードが落ちるだけだし、中途半端な助言をしてアウトプットの質が相対的に下がるリスクだってある。
社外に出すものに関しては事前に知らせてもらうようにしていますが、社内向けのプロジェクトに関しては全部任せるスタンスです。「あなたがベストだと思ったことを、あなたの判断でやっていい。全部、信じて任せる。ただし、何をやったかだけ後で教えてね」と伝えています。
すると、大企業から転職してきたメンバーはビックリするんですよね。「え? ホントに事後報告でいいんですか?」って。それで実際にやってもらうと、明らかにパフォーマンスが上がる。やっぱり“自分の名前で、自分の責任で”仕事をするという向き合い方になるだけで、成果をがんがん出すようになります。もし、それで成果が下がるようなら採用時点のミスジャッジだったなと、僕自身が反省しますね。
要は事後報告にすることで、「自分は本当に何がしたいのか」「どんな仕事だったら役に立てるのか」と本気で考えるから、自然とwillが育つ。そんな効果を感じているところです。
上田:分かります。世の中の多くの組織は、全ての仕事に事前の承諾プロセスを求めて「いや、それはあかんやろう」と突っ込みを入れる。結果、成果を出せない人を着々と育てていく。そんな構造になっているのが残念ですよね。
僕らが一番人間として優秀だった時期はいつかと振り返ってみると、子どもの頃だったと思うんですよ。「プロ野球選手になる!」「大統領になる!」みたいな壮大な夢を堂々と描けたじゃないですか。「おいおい、日本に大統領になれる制度なんてないぞ」というつっこみもスルーしていたのが、大人になってだんだんとたたかれるうちに劣化していく。
北野:ピカソも子どもの頃に写実的な絵で才能を発揮していたそうですね。その後、キュビズムを極めて画家として大成していくわけですが、晩年になって「私はようやく子どもの頃のような絵を描けるようになった」と言ったそうです。
人は社会活動でいろいろなことを学ぶうちに、もともと持っていたはずの才能を捨ててしまい、心の底から胸躍るものに取り組めなくなってしまう。
上田:そう思います。だから、さっきおっしゃった「事後報告」の試みはすごくいいと思います。うちもよく「ティール組織ですね」とか言われるのですが、ティール組織を目指したわけではなくて、個人の才能を生かす組織を目指したら自然とフラットな組織になったというだけなんです。
「ホウレンソウ(報告・連絡・相談)もないんですね」と誤解されがちですが、いや、そうじゃないです。相談はしなくてもいいけれど、事後報告はしてほしいと言っています。それも、別に僕にしなくていいからみんなに報告してね、と。
「退職」も上司への報告前にツイッターでつぶやけ
北野:なるほど。チームに向けて報告する。
上田:チームや世の中に向けて、ですね。あるメンバーがほぼ意思が固まった状態で「退職の相談を」と僕に言ってきたときも、「いや、個別にわざわざ言わんでいいから、もっとオープンに言えばいいよ。なんなら、『辞めようかな?』と思った瞬間にツイッターでつぶやいてくれよ」と伝えたんですよ。
北野:えー? やばっ。それでいいんですか。
上田:本人からしたら、わけが分からないでしょうね。ちゃんと上司に根回ししたつもりが、逆に「もっとおおっぴらにつぶやけよ」と叱られる(笑)。
北野:やばい会社ですね(笑)。でも、事後報告に任せるのって、実はすごく難しいです。なぜなら、マネジャーは相当の覚悟と自信がなければできないことなので。
以前、元グーグル日本法人会長の村上憲郎さんに「天才がたくさんいる組織をどうやってマネジメントしているんですか」と聞いたことがあるんです。そのときに返ってきた答えが格好よくて。「マネジメントなんておこがましいです。私ができるのは、彼らを自由に放牧させることだけです。そして、失敗したら謝りに行くのが私の役割です」とおっしゃいました。そのとおりだなとしびれました。
もちろん、入って間もないメンバーは期待値どおりのアウトプットを出せないこともありますが、そのときは修正するしかない。ウェブ系のサービスの場合は、世の中に出た後も修正を重ねるアジャイル開発が可能なので、より事後報告型の育成がしやすいとも思っています。
ハードウエアの場合は、商品を発売した後に「あの部品が間違っていた」となると、回収して大騒ぎになるけれど、ソフトウエアの場合はむしろ一度リリースして改善を重ねるほうが速く走れる。
上田:おっしゃる通りですね。ただ、僕らは残念ながら「上司が後で謝る」という文化もあまりないです。
北野:ないんですか(笑)
上田:「お前がやっているんだから、お前の責任じゃね?」というスタンスです。先ほどお話ししたように、事業を会社化して独立した事業主体にしているという前提も大きいですね。
北野:なるほど。次に、上田さんご自身の経営者としての変化についても聞かせてください。30歳のときにガイアックスを上場して、現在45歳です。上場企業の経営者となって既に15年たっていますが、この間でのご自身の成長、あるいは変化をどのように感じますか?
上田:もちろんたくさん失敗してきましたし、人は失敗によって成長すると思っているので、その意味では僕が一番成長させてもらったなと感じています。でも、基本的にはあまり変わらないというのが実感です。
僕は経営者ですが、自分が前に立つというより、「人と人をつなげるための最先端にいたい」という点にプライオリティーを置いていて、そこはずっと変わりません。15年前と比べると、はるかに時代が同じ方向を向いてきて、関心を持ってくださる方が増えたのはうれしいですね。
北野:人と人をつなげる。時代のプライオリティーもそこにより向いてきたという変化を感じていらっしゃるんですね。
上田:例えば、ギグエコノミーが組織の中にもかなり浸透してきたなと思いますね。
組織を「固定化」するのはリスク
北野:ギグエコノミーってなんですか。
上田:それぞれの役割を持った人が瞬時に集まることで物事が成り立つ経済活動のことです。音楽のセッションのように、今日初めて会った人同士が楽器を持ち寄って1曲演奏し、「よかったね」と言って解散する。例えば、ウーバーのサービスもギグエコノミーの形の1つです。
北野:インターネットでマッチングされたドライバーとお客が、A地点からB地点まで乗車して完結するというような。
上田:はい。仕事の仕方も、その時々で「これやってみたい」と感じたプロジェクトに即時に参加するようなスタイルが出てきています。うちの場合、副業は自由ですし、社内の他の事業部の仕事を副業として受けるのもOKにしているんですよ。
「これ、ちょっとやってくれへん?」「それは僕個人としてですか? うちの部署にですか?」という会話があちこちで発生しています。
そんなに偶発的な仕事の進め方でちゃんと安定するのかよ? と思うかもしれないですが、現にウーバーもビジネスとして成立していますよね。似たようなやり方は1つの組織内でも可能だと思うんです。
北野:なるほど。組織もウーバーと同じやり方で回るのではないかということですね。
上田:はい。逆に、組織を固定化させることは、すごくリスクが高いと思います。
先日、シリコンバレーの「500 Startups」というアクセラレーションプログラムに遊びに行ってきたんですけれど、そこではグーグルとかフェイスブックの部長クラスがふらっと遊びに来て、いろんな起業家に対して「お前のビジネス、面白いな」と、その場で500万円くらい出資していくんですよ。そしてその翌日にまたふらっと現れて「進捗したか?」と聞いて、レビューし始めるんですよ。
北野:翌日に? 面白いですね。
ギグエコノミー型組織についての感想として、まず、プロジェクトベースの能力開発にとても合っているなと感じました。要は、新しくて面白い仕事って常にプロジェクトとして発生するので、プロジェクトに呼ばれる人材、あるいはプロジェクトをつくる人材になるほうが絶対にいい。
上田:そうですね。
北野:もう1つ思ったのは、“働きがい”への効果です。当社が「OpenWork」という口コミサイトと共同で「学生からの人気は高いが、社員からの評価は低い企業ランキング」という企画を昨年からやっていて、その傾向を見ると、人気が高い企業にはコンサルティングファームの社名がずらりと並ぶんです。なぜかなと考えてみると、コンサルの仕事はほとんどがプロジェクトベースで新しいことばかり扱っているので、働きがいを感じやすいのかな、と。
上田:確かにそうですね。
北野:逆に、社員評価のスコアが低い会社にはどういう共通点があるのだろうと議論していたら、「日常の通常業務が面白くないのでは」という意見がありました。確かに、通常業務が面白く感じられるかどうかは、とても重要だなと僕も思ったんです。
グーグルが強い本質的理由は、天才が何人もいるからではなくて、普通の仕事でも面白がれる環境づくりを徹底しているからでしょう。『OPENNESS 職場の「空気」が結果を決める』という本でも書いたのですが、グーグルに新卒で入った人もまずはテレアポ業務から始める。でも、テレアポにもゲーム性を取り入れたりして、面白く取り組める工夫が凝らしてあるそうなんです。トヨタ自動車の「カイゼン」も同じで、要は日常の通常業務を面白がれる環境が、会社のベースの強さになる。
上田さんがおっしゃるような「プロジェクトベースで仕事を組み立てていく手法」は、世の中のトレンドでもあるし、そもそも仕事を面白がるための本質なのだろうなと思いました。
給料は自分で決める。世の中の制度は乱暴だ
北野:ちなみに、これからの会社は、社員にプロジェクトベースで面白い仕事をしてもらいながら、ベーシックインカム的にある程度の給料を保証するようなものになっていくのでしょうか?
上田:いや、僕個人の考えとして、ベーシックインカム的な保証を背負うつもりはあまりないですね。
北野:でも、ガイアックスの組織は現にそうなっていませんか?
上田:いやいや、うちはかなり優勝劣敗な組織ですよ。
北野:そうなんですか?
上田:はい。「優しい組織」と勘違いされるんですが、決して「優しい組織」ではございません(笑)。結構、成果主義を徹底していますね。
北野:成果のよしあしがダイナミックに給料に反映されるとか?
上田:うちは自分で自分の給料を決めるんです。決める際にルールが1つだけあって、先に給与のテーブルを自分で決めるんです。例えば、3カ月後や1年後、3年後にどんな成果を出して、それに対する報酬はいくらであるべきなのか、というものです。それもワーストケースからベストケースまで書いて、メモとして残す。提示された数字は一応見ますけれど、ほぼ却下することはないですね。
北野:却下しないんですか。でも、「年収5000万円希望です」と言ってきたら、どうするんですか?
上田:さすがにそれは却下しますけれど、そんなに非常識なメンバーはいないので、皆まともに書いてきますよ。ちなみに、北野さんの1年間の経営計画のうち何%くらい達成できている感覚がありますか? 100%とか150%とかですか?
北野:そもそも目標設定が高いので、行ったとしても100%とか110%くらいですね。
上田:すごい。立派ですよ。うちはベンチャーキャピタル事業もやっているのですが、言った目標通りに成果を出す会社なんてほとんどないです。
ここにライフワークに対するこだわりが効いてくるんですよ。どうせやるなら人生の時間を無駄にしたくないじゃないですか。僕としても「よし、絶対にベストケースを目指そうぜ。給料も一番高いケースにしよう」と言えば、決して会社と個人が敵対することはなく、両者が同じ側に座れるんです。
北野:それは大事ですね。
上田:だから、うちは結果に対する評価もしないです。評価は誰にでも分かるように、事前に紙に書き出してあるから。
北野:面白いですね。「適切な目標を設定した時点で、8割の達成は決まる」と聞いたことがあります。
上田:その点では、うちはズタボロかもしれないな。でも、それは目標設定がかなり高いからなんですよ。
北野:なるほど。きっと入社時点からずっとwillを磨き続けている人たちの集団だから、目標レベルも高くなるのでしょうね。ライフワークと一致したキャリアプランがあって、自分で目標設定もするから、うまくワークしていく。
上田:会社側としても、高い目標と高い給料を設定してもらうほどありがたい。こういう制度なので、同期の概念もグチャグチャで、ないに等しいです。
「不公平になりませんか?」と時々聞かれますけれど、僕から言わせてもらうと、世の中の一般的な給与制度ほど乱暴な制度はないと思いますよ。勤務年数だけでほぼ決まる給与制度なんて、どう説明したら本人の納得を得られるのか、僕は答えを出せないです。
うちは業務委託契約に近い交渉形式なので、お互いに納得感は得やすいと思っています。
北野:会社と個人が目標を共有することは、とても重要ですよね。僕もメンバーの目標設定に立ち会うことがよくあるのですが、よくあるフィードバックが「確かにこの部分は頑張っているよね。その点はぜひ評価したい。でも、これだけだと皆で給料が上がることはないよ」というものです。
つまり、個人が実力を発揮するときに同時に考えたいのは、組織全体の生産性を上げること。チーム全体の1人当たりの生産性、粗利や営業利益を意識して、それらを上げる仕事をしない限りは、分配する給料の金額は上げられない。この構造についてあらためて説明すると、「今まであまり分かっていなかったです」という反応もあったりして。
個人も組織もWin-Winの関係になれる目標を設定する。その技術を磨く重要性を、お互いに意識していきたいと感じています。上田さんに伺いたい話題は尽きませんが、会場からも質問の手がたくさん挙がっていますね。どんどん答えていきましょう。(後編は4月21日に公開予定です)
(構成:宮本恵理子)
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