「マトリョーシカ」継承では意味がない
北野:面白いなぁ。僕、めっちゃ共感できます! というのも、僕自身も採用面接をするときには、ほぼ月〜金の行動について聞かないんです。「土日は何をして過ごしていますか?」と聞くことのほうが多い。
藤野:うんうん、分かります。
北野:つまり、監督者がいない環境下でどんな行動を選択しているかを知りたいんですよね。実際、そういう視点で採った社員はすごく自律的で、細かい指示はしなくても、新しい視点で仕事を提案してきてくれることが多いです。そういうとき、すごくうれしくなります。
もう1つ、違う視点で質問をしてもいいですか? 「後継者育成」についての問題です。後継者をどうしようかと悩んでいる経営者に対しては、藤野さんはどんなアドバイスをされてきましたか?

藤野:僕が経営者に対していつも言っているのは、「後継者になり得そうな人物がいたら、全部潰しにかかってください」と。それで潰れるくらいなら、力が足りないんです。同時に、経営者がいない席では有望な幹部の人たちにこう言うんです。「早くあのおじいさんを倒しなさい」と。
北野:面白い。真逆のことを言うんですね
藤野:そうです。創業者の首を取ろうとする気概のある人でないと後釜は務まりませんよ。社長に指名されて「ハイ、承知しました」と来るような人では不十分で、「あの座を乗っ取ってやる!」とぶつかって来るくらいの人物じゃないと、創業者の代わりにはなれないと思うんですよね。実際、星野リゾートの星野佳路さんしかり、ファーストリテイリングの柳井正さんしかり、結果を出している後継ぎ社長はそういうパターンに近いでしょう。
「うちの社長はさ」と居酒屋で愚痴っている暇があれば、数の力を使ってもいいから早く乗っとりなさいと言いたいです。それができないなら、「自分は社長に対抗できる器じゃない」と謙虚になって、粛々と仕事をしていたほうがいいのではないかと僕は思います。
北野:健全なる競争の結果として後継者は誕生するということですね。
藤野:そうです。後継者とは「つくるもの」ではなく「なるもの」。少なくとも社長が指名しないほうがいいと思います。なぜなら、自分の言うことをよく聞く、自分よりちょっとだけ優秀じゃない人を選ぶはずなので、“劣化コピー登用”になりやすいからです。その次の人もまた少し劣化コピーした社長になって……。僕はこの現象を「マトリョーシカ継承」と呼んでいます(笑)。
北野:どんどん小粒になってしまうのだとしたら、ダメですよね(笑)。
藤野:もし指名で選ぶとしたら、アメリカのように指名委員会をつくって、外部の専門家の意見も交えながら議論して決めるといいと思います。かつ、3年や5年と期限を決めて、「結果が出れば報酬を約束するけれど、ダメならクビだよ」と突き付けたほうがいい。
日本の大企業の場合は、社長に選ばれた瞬間が会社人生のピークで、なってからは消化試合になりがちです。日本の経済が成長しなくなった原因の多くは、大企業の社長が仕事をしないから。
ベンチャー企業の創業者は違いますよね。社長になった瞬間はピークではなくて、ゼロリセット。僕もたった3人で会社を始めたときには、営業も備品の調達も請求書発行も、全部自分でやらなきゃいけなくて大変でしたよ。それまではゴールドマン・サックスで相当な年収をもらっていたのに、超切り詰める生活になって、名刺には確かに「社長」と刷ってあるが、ただ刷ってあるだけの社長でした(笑)。
つまり、社長になるということはスタートである。その緊張感と希望がどれだけ馬力を生むかということも体感してきました。社長をゴールではなくスタートにする環境づくりが、あらゆる産業の活性化には不可欠ではないかなと僕は思います。
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