才能を殺す組織と生かす組織は、何が違うのか。新卒採用のクラウドサービスを手掛けるワンキャリア(東京・渋谷)の取締役で作家の北野唯我氏が対談を通じて探っていくシリーズ連載。今回のゲストは、中小型株や成長株を中心とした「ひふみ投信」を運用するレオス・キャピタルワークスの藤野英人氏。後編は、日本を駄目にした人材育成や経営者選びに2人が切り込む。キーワードは、人材の「劣化コピー」と経営者の「マトリョーシカ化」だ。

前編から読む
北野唯我氏(ワンキャリア取締役、以下敬称略):藤野さんは投資先を見極める上での材料として、昔はなかったデータを使うようにもなりましたか? 例えば、SNS分析なども参考にされているのかどうか。
藤野英人氏(レオス・キャピタルワークス社長、以下敬称略):僕たちは新しいものが好きなので、どんどん導入していきたいと思っています。なぜなら企業の本質はやはり細部に宿るからです。本当に細かいところでいうと、例えば「ホームページの更新頻度」を分析するといいでしょうね。更新頻度が高いほどいい会社なはずで、更新頻度が高かったのに急に低くなった会社は絶対によくない何かが起きているはずです。
北野:先日、『OPENNESS』という本を出したときには、企業の口コミサイト「オープンワーク」のデータを活用しました。社員の口コミが変化すると半年後や1年後、業績に如実に表れるというエビデンスが論文でも発表されていて、すごく興味を持ったんです。
藤野:僕らもインターネットが普及する前に近いことを少しやっていましたよ。どういう調査かというと、日本の上場企業3600社を対象に、はがきでアンケートをとってたんです。
だいたい木曜の夜に投函(とうかん)すれば、地方の会社であっても月曜には到着する。そこからヨーイドン!で、はがきの返り具合を見るわけです。
ただし、返信の中身はほとんど見ていなくて、重視していたのは「返信率」と「返信速度」。早く返してくれる企業ほど、業績はいい。返信さえくれない企業は、確実に株価が低迷しているんですよ。当時、調べている限りでは、かなり相関がありました。
北野:面白いですね。藤野さんの著書には、「経験が浅かった頃には、投資の判断に失敗した経験がいくつもあった」とも正直に書かれていて。確か、キノコ関連の会社で1社目は投資をしたのに調査不十分で業績悪化の主因を見極められなかったこと、逆に2社目と3社目は優良な成長株だったのに可能性を見極められなかったことを告白されていましたね(いずれも『図解 スリッパの法則 5000人の社長に会ったプロが教える! 伸びる会社VS危ない会社の見わけ方』に記載)。こういった“見極めの失敗体験”について、今となってはどう解釈されているんですか?
藤野:あの体験からは、「人は失敗から正しく学ぶとは限らない」という学びを得ましたね。当時の僕は投資家として未熟で、1社目の失敗から「もうキノコの会社には投資をしない」と結論付けてしまった。これが間違った学びだった。当たり前だけどキノコには何も罪はなくて(笑)、本当の失敗の原因は調査不足だった。
スーパーに流通する商品にちょっと違和感を抱いたときに、その原因をきちんと調べるという基本動作を怠った僕が悪かったんです。結局、その会社が無理な設備投資をしていたことが後から分かったわけですが、僕は自分自身の怠慢に向き合えず、物言わぬキノコに八つ当たりしていたんです。キノコは恨まれる筋合いはないのに(笑)。
結果、とても伸びる会社が目の前を通り過ぎても「キノコの会社には手を出さない」とみすみすチャンスを逃してしまった。
でもね、これ、投資の世界ではありがちなんですよ。「FXがダメなんだ」とか、失敗の理由を対象のせいにしてしまう。そうじゃなくて、多くの場合の原因は自分の判断にあるんです。要するに、失敗したときには自分と真摯に向き合うことが大切で、自分以外の何かのせいにしている限りは成長できない。
Powered by リゾーム?