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もうかっている会社は「好き」を集めている会社

藤野:僕らが長生きする時代になったからです。「年金2000万円問題」というのが世間をにぎわせましたが、これは「定年後に普通の暮らしを続けていこうと思ったら、2000万円くらい足りなくなるよ」という話ですね。なぜ足りなくなるかというと、今の年金制度を設計した時代の想定以上に、長生きできる時代になったからです。

 長生きできるって、本来はとてもいいことであるはずなのに、「これじゃ、まずい」と騒がれている。考えてみれば当然で、長生きする時代になったのに働く期間が変わらないままだと、お金が足りなくなるに決まっているんです。

 「だったら、働く期間を延長しましょう」と制度を変えようとすると、「とんでもない」と大ブーイングが起きてしまう。「65歳まで働くなんて嫌だ! 70歳までなんて耐えられない」と。

北野:僕は80歳になっても90歳になっても働きたいけどなぁ。

藤野:と、考えることができたらいいんですよね。「働くこと=ハッピーで楽しいこと」と思える人が多ければ、年金2000万円問題なんてアッという間に解決です。しかし、現状はそうではない。

 その背景には、日本人に「仕事嫌い」が圧倒的に多いという状況が横たわっているんです。「働くことはつまらないことであり、苦行である。給料は我慢代でしかない」という認識が広く持たれているがために、本来は喜ばしいはずの長寿時代がネガティブに捉えられてしまう。これは“超”が付くほどの大問題なんですね。

 日本人の仕事嫌いは最近の調査でも顕著に表れていて、ある調査では、自分が働いている会社に対する信頼度は26カ国中25位という結果。これは世界の主要国の中でも最低のレベル。韓国も近い数字で、日韓でデッドヒートを繰り広げているんですよ。

北野:悲しい結果ですね。

藤野:ちなみにアメリカは80%超。中国も同じくらいの高水準で「会社が好き」と言える人が多い。

 何が違うかというと、労働市場の流動性です。アメリカ人や中国人は、「この会社は嫌い。信用がおけない」と感じたら、すぐに辞めて好きな会社に移るんです。だから、常に好きな職場で働いている。

 一方で、日本人は、一見会社に忠誠を誓っているようで、内心は会社を信じていない人が半数以上いる。まるで仮面夫婦のように……。これってちょっと怖いですよね。

北野:本心では別れたいのに別れない。

藤野:そうです。なぜ嫌いな職場にとどまってしまうかというと、長年の“擦り込み”があるんです。もう愛のない夫婦がいたとして、奥さんが自分の親に「お母さん、私、もうあの人とは駄目かもしれない……」と相談したとします。そのときに返ってくる助言はたいてい「男なんて、そんなものよ。私だって我慢してきたんだから。今やめたら損だから、もうちょっと頑張りなさい」といったもの。

 同じような“親ブロック”“妻ブロック”“夫ブロック”が、転職においても頻発してますよね。「仕事なんてそんなものだ。耐えればいつかいいことあるよ」と。日本社会では、「損か得か」で意思決定することがよしとされて、「好きか嫌いか」で物事を決めるのはよくないとされる場面がとても多いんです。

 しかし、投資家の視点からすると、これは大間違い。僕は「この会社は投資をすべき対象か」と見極めるときに重視するのは、「もうかりそうか損しそうか」ではなく、シンプルに「この会社を好きか嫌いか」。「もうかりそうか」を見定めるのは結構難しいし、いろいろな状況に左右されるのですが、好き嫌いというのは、その人の価値観や哲学が反映される主観なので、実は一貫性があるし、ブレにくいんです。

 かつ、ずっともうかっている会社というのは、お客様の「好き」をたくさん集めている会社に決まっているんです。なぜなら、人は「売る」行動においては本音を出すとは限りませんが、「買う」行動には必ず本音が出る。