「社内政治」を丁寧にやる

宇田川:現場のミドルが上に対して起こすべきアクションとしては、まず中期経営計画と事業戦略をよく理解する努力をすることだと思います。あとは社内政治を丁寧にやっていく。

 社内政治といっても変な根回しという意味ではなく、「あの発言はどんな文脈から出てきたのか?」と探るためのインテリジェンスを集めるという意味です。発言の意味が理解できないということは、文脈を集められるだけのネットワークが不足しているという証拠とも言えます。

 集めた文脈から上層の言葉の真意を理解した上で、現場に落とし込める部分を見極めて、できる範囲から始めていく。部分的であっても、結果を出せば上は評価してくれますよね。「あいつはちゃんと分かっているぞ」と。

 重要なのは、この一連の流れの中で、気づけば協力者が増えているんですよね。1人でやり切ろうとしないことが大切で、チームで動いていく。「上層部の言っていることはよく分からないけれど、何か理由があるはずだよね。一緒に探ってみようぜ」と部下も巻き込んでいく。すると、それまで知り得なかった部下の能力が浮き上がってくる可能性もあります。

 そうやって孤立せずに、いろんな人を巻き込みながら地道に進んでいけば、気がつくと風景が変わっている可能性があります。僕自身もここ3年ほどで、より積極的に外に向けた活動を続けてきて、いろいろな人と会ってきた結果、「悪い人が悪いことを言っているわけではないのだな」という気づきを深めることになりました。

北野:分かります。今おっしゃったことは、僕自身もずっと感じてきたし、他の人にも伝えていきたいと強く思っていることです。一人ひとりの個人として出会い、話をすると、人間同士として温かく向き合えるのに、なぜか法人という単位になった途端に血の通った意思決定ができなくなってしまう。そんな問題がなぜ起きてしまうのか、どうしたら起きないようにできるのかを、ずっと考えています。

宇田川:相手をかけがえのない存在として「私とあなた」として捉えられるか、相手を道具として「私とそれ」と捉えてしまうのかという違いですね。

北野:僕自身が他者の背景を理解するためにやっていることとしては、「『とはいえ』と例外を聞く」ように心掛けています。上司が「こうしてほしい」と指示をしたときに、「とはいえ、こういう場合もありますよね。そんなときはどうしましょうか」と尋ねる。相手の思考を解像度高く理解しようとする気持ちが重要ではないかと感じているんです。

宇田川:それはすごく大事ですよね。

「他者の文脈は理解できない」を前提に

北野:あと、これはある大手企業の取締役の方が実際にやっていたことなのですが、その人は社長の前であえて“社長視点で”メンバーを叱るそうです。資本市場で闘うトップの視点に立って、本当にリスクを考えたのかと。叱ることも事前にメンバーに伝えているので、“仕込みの演技”ではあるのですが。

 しかし、そうすることで、経営者は安心するのだそうです。自分と同じ視点を持っている仲間がいると分かるだけで。中間層のマネジャーの役割はそこにあるのかなと感じました。

 今日、宇田川先生とお話をしながら、ビジネスを舞台とした物語をつくる作家として、僕が果たしていきたい役割についても、改めて考えることができました。“すぐには役立たないけれど、大切なもの”をじっくり伝えることを、諦めずにやっていきたいです。

 漫画『HUNTER×HUNTER』の作者である冨樫義博さんがおっしゃっていたのですが、物語を展開する際には「小さな真実を積み重ねていって、大きなウソ(夢)を描く」と。

 『ハリー・ポッター』シリーズも『千と千尋の神隠し』も最初は、誰もが身近に感じられる日常風景が舞台となって、いつのまにか異世界へと引き込まれていく。今日すぐに役立つとは限らないけれど、本当に大切にしていく本質的な価値を伝えていく。そのための装置として、物語の力を使っていきたいと思います。

宇田川:我々は他者の文脈を理解できていないし、その理解がとても苦手な生き物なのだという前提に立つべきですね。そして、自分自身もまた、メタ・メッセージとメッセージの2種類を発していると自覚することが大切です。

 すぐには伝わりにくいメタ・メッセージを重視すると同時に、即効性のあるメッセージもおろそかにしない。両者をいかに両立させるかということが大事だと思っています。僕自身も、一人の実践者として努力を続けたいと思います。

北野:ありがとうございました。

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