若いうちはさまよっていい

北野:深く共感します。今なんとなく、若くして成功した人に光を当てるメディアや、早い成長を過度に促す風潮があることがとても気になっています。僕個人としては、慎重にやるべきだなと考えているんです。それは経営者やメディアといった評価する側に立つ者が注意深くなる必要もありますし、同時に、評価される側の視野も広く持つべきだということですね。

宇田川:若い人に対しては、僕自身は「さまよっていいんじゃない?」と言ってあげたいですね。どうせ自分が何をやるべきかなんて分からないのだから、30歳くらいまでは結論を出そうとせずに、さまようのがいいのではないかと思います。僕自身もずっとさまよってきたタイプなので(笑)。

北野:個人のキャリアも事業と同じで、プロダクトドリブンとマーケットドリブンのせめぎ合いで上り詰めていくものですからね。つまり、内側から湧き出るやりたいことを極めていく生き方と、外側の市場に合わせて勝負をかけていく生き方とのバランスです。

 その切り替えをどう見極めていくか。僕はよく「自分が同じことばかり繰り返し言い続けていると気づいたら、進化していないサインだから切り替えどきだよ」と伝えています。宇田川先生はどう考えていますか?

宇田川:やはり“違和感”に気づいたときが、物語的知性を働かせるタイミングだと思います。「何かおかしいな」と感じたときが、頭の働かせどきであり、次なる自分への扉が開いたときでしょう。

 僕自身、勤める大学は今の大学で3つ目ですが、大学を移るときはいつも、何か新しいチャレンジする覚悟が定まったときですね。九州から東京エリアに戻ってきたのは、これまで培ったものをビジネスの現場にもしっかり広げていきたいという思いが強まったからです。そういう意味では、僕自身も自分の気持ちに素直に勝負をかけてきた気がします。

 日本の経営学も転機に来ています。例えば、一橋大学名誉教授の野中郁次郎先生が見てきた日本的経営の現場は1970年代までが中心で、主に経営層が対象です。85年の論文で「スクラム開発をするには、月60・00時間の残業が必要」と書かれてあり、今の働き方改革の文脈では現実味が失われています。しかし、野中先生が今でも実業界に影響を与え続ける理由は、「現場が大事だ」と言い続けてきたからだと思います。

北野:ビジネスの現場から課題を解決していきたい、という思いは広く共有されているということですね。先ほどの「溝に橋を架ける努力を」という話にも通じると思うのですが、溝に気づいたときに起こすべき最初のアクションは何でしょうか。

 例えば、中間管理職が「上が言っていることが腑(ふ)に落ちず、下にうまく伝えられない。しかし、なんとか現場を動かさないといけない」と悩んでいるときに、まず何から始めるべきだと思いますか。

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