組織への「早過ぎる最適化」には要注意

北野:おっしゃる通りですね。僕も『OPENNESS(オープネス)』という本では、組織にとって“風通しの良さ”が重要であることを伝えたかったのですが、やはりそれが本当に得であるという動機付けを与えなければ、本は読まれない。「風通しの良さによって、業績が上がるのか?」という一点の証明をするために、前段にかなりのボリュームを割きました。

 もう一つ、長期的なアプローチの重要性を伺いながら、思い出したのはこの連載で登場くださった元陸上選手の為末大さんの話です。「才能を殺すものは何か」という質問に対して、為末さんは「早過ぎる最適化」だと答えたんです。

 例えば、小学生の頃に野球で活躍するには、出塁率を上げるためにとにかくボールを前に転がすことが奨励される。守備がうまくないから相手のエラーで点を稼げるからですね。ところが、高校野球以上になってくると、だんだん守備も上達してきて、前に転がすだけでは出塁もできなくなる。

 同じことがビジネスでも起きていて、20代前半に注目を浴び過ぎると、そのときにもてはやされたスキルに最適化してしまって、長期的には苦しむ。そういう人を身近でもたくさん見てきました。

 一方で、「早く結果を出したい」と焦る気持ちもよく分かる。「人生は長いが、早く評価されたい」というジレンマに悩むビジネスパーソンはきっとたくさんいるはずです。このジレンマにはどう対処していったらいいのでしょうか。

宇田川:一つの答えになるかもしれないのは、「誰の声を聞いているか」という点に、常に意識を向けることです。同じくスポーツの例で僕が興味を抱いたのは、サッカーの久保建英選手です。彼は幼少期から類いまれなる資質で注目されてきた選手ですが、FC東京時代には一時実力を発揮できず、他チームにレンタルされるような時期がありました。

 そのとき、彼は「なぜ自分は試合に出させてもらえないのだろう」と自問し、はたと気づいたそうです。「これまでずっと自分のやりたいプレーばかりやろうとしていた。サッカーとはチームスポーツであり、監督の戦術を実現することが選手の役目だった」と。以後、役割を表現することに集中した結果、また試合に出られるようになり、レアル・マドリード移籍にまで発展したというプロセスがあったそうです。

 為末さんがおっしゃった「早過ぎる最適化」の状況で何が起きていたかを考えると、きっと「限られた誰かの期待に応えていた」のではないでしょうか。真面目な人ほど、自分なりに周りの人の期待に応えようと努力をするものですが、その「周りの人」が、実は非常に限られた未熟な視線を向けている場合が少なくない。本当に長期的に俯瞰(ふかん)した目が入れば、期待の応え方もまったく違うものになる。

 ミハイル・バフチンという哲学者の言葉を借りれば、我々は「応答する存在」です。発話は相手への応答であり、僕が今しゃべっている内容も、日経ビジネスというメディアに向けて、北野さんを相手にして生まれるものであり、ある意味、非常に狭く限られた声に対する応答なんですよね。「自分は今、どの声に対して応答しているのか」と意識することは、とても大事だと思います。

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