組織の中には乗り越えるべき様々な「溝」がある

宇田川:矛盾が学習の引き金になる――。これは、フィンランドの教育学者、ユーリア・エンゲストロームが言っていることです。経営者とメンバーは構造的に矛盾が生じるものであり、だからこそ、その矛盾を乗り越える先に学習が生まれる可能性があります。

 それなのに、なぜ、なかなかうまくいかないのか。それは、学習を助ける手懸かりがうまく機能していないからです。エンゲストロームの理論のベースにレフ・ヴィゴツキーという心理学者がいて、「発達の最近接領域」というちょっと小難しい概念を述べました。

 例えば、7歳の子どもが2人いたとして、他者の助けを借りて8歳レベルの勉強ができる子の最近接領域は8引く7と計算して「1」、10歳レベルの勉強ができる子の最近接領域は同様に計算して「3」と考えます。1と3の子に同じように教育をすると、良い学習につながりません。目に見える能力だけを見て、同じように他者が学習を支援するのではなく、それぞれの最近接領域に応じて他者が支援することが必要だということです。ポイントは、学習においては“他者の助け”を媒介として、より遠くの向こう岸に橋を架けることができるという点です。

北野:面白い!

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宇田川:では、発達の最近接領域が「3」である7歳児に対して、15歳レベルの勉強を教えたらどうなるかというと、身に付かないんですね。飛び越えるべき溝だと感じないからです。

 こういった溝の差は人によって違うし、組織には構造的に溝がボコボコ生まれるんです。

 先ほど北野さんが話してくれたような、ある仕事をやるべきかどうかの判断というのも、溝の乗り越え方が分かっているかどうかによって、答えはきっと変わるのでしょう。北野さんの場合は、経営者視点を早くから身に付けていて、溝の乗り越え方をイメージできる人なのだと思います。

 重要なのは、組織の中にはいろいろな溝があることに気づくこと。そして、それに対する挑み方を、実は私たちはよく分かっていないという事実を知ること。これが学習の入り口になるのです。

北野:挑み方が分からないことに気づくことが大切ということですね。

宇田川:そうです。溝を渡る橋の架け方が分からないからモヤモヤしていて、そのモヤモヤが辞めるときになって噴出するんですよね。橋の架け方をどう周りの人が助けられるかどうかがポイントであり、助けた人も「助ける方法を学ぶ」という経験によって成長し、自分自身もまた他者からの助けを受け入れられるようになっていくわけです。そういった積み重ねを個別に一つひとつやっていかなければいけない。一律にこうしたらいい、というマニュアルは作れません。

(続きは1月31日に公開予定です)

お知らせ
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 北野唯我氏をゲストにお招きしたイベント「Raise LIVE」を2020年2月13日(木)夜7時から開催します。テーマは「天才を殺す組織 生かす組織」。対談のお相手は、シェアリングエコノミーなどに注力するガイアックスの上田祐司社長。ガイアックスはフラットな「ティール組織」を実践することで知られます。なぜ、「ティール組織」なのか。モデレーターは日経ビジネスの大竹剛。ぜひご参加ください。

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