我々は「他者」を必要としている
北野:すごくいいタイトルですよね。
宇田川:なぜいいタイトルと思ったかというと、「我々は他者を必要としている」ということを暗に伝えられるからです。
「他者」というものは、厄介で面倒で不都合だらけの存在なのだけれど、他者との間に橋を架け、対話的に向き合っていくことを通じて、「私」自身も変わっていけるんですよね。他者を通じて、ちょっとマトモになれるというか。いかに自分が愚かだったかを知り、それまで見えなかったものを見られるようになる。つまり、我々にとって他者は必要な存在だということを、僕は最も伝えたかったんだと思います。
他者とのズレは常に起こるし、分かったつもりになっても、まだ分かっていないところは必ず見つかる。僕自身も、普段よく接している学生に対して、「彼はこういう性格だろう」と思っていたら意外な面に出会う、なんていうことを繰り返していますから。僕たちは他者を通じて学び、だんだんと愚かじゃなくなっていく。その学びを受け入れるための知性を身に付けないといけませんね。

北野:その知性というのは、何でしょうか。
宇田川:靴修理を中心としたサービスを展開するミスターミニットを再建した迫俊亮さんと話をしたときに、彼はそれを「教養」と言っていました。僕はもう少し違う言葉で、「実践」だと思っています。後は、僕の本を読んでくれた後輩が「この本は、大人になるための本ですね」と言ってくれて。
北野:確かにそうかもしれないですね。
宇田川:大人になるための実践だと考えれば、面倒な他者との関わりも少し楽しめるのではないかなと思うんです。絶対に分かり合えないと思っていた相手との間に、ちょっとだけ橋が架かると、それだけでうれしいじゃないですか。分かり合えない相手がいるほど、チャレンジする素材はたくさんあるともいえる。
北野:面白いですね。私が実践している、全員カスタマイズ型の社員ブログの話で、宇田川先生がご指摘されたように、5人に1人くらいは僕の企画書とは全く違う記事を出してくるんですよ。しかも、絶対に変更が利かない公開前日くらいのタイミングで(笑)。
でも、僕はそういう全く違う意見が出てくることはありがたいと思うんです。きっと彼も僕に意見するのをすごく迷って、思い切って前日に切り出してきたはずで。メンバーから意見をされなくなったら、経営層として僕は終わりだなと思いますし、前日の変更でも「いいんじゃない」と返せる自分でありたいなと感じました。
宇田川:そういう気持ちは大事ですね。
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