面倒くさいことまであえてやらないと、人は動かない
北野:しかしながら、相手の“前置き”、かっこの中に隠された文脈を見極めることは、決して簡単ではない。僕自身が実業家として実践している1つの試みが、「社員ブログ」です。
僕が経営に携わっているワンキャリアでは、求人情報サービスの「Wantedly」に社員一人ひとりを紹介するブログ形式の記事を掲載しているのですが、その社員ブログの制作では、僕が企画・構成・クリエーティブの全てに深く関わって、かなり作り込んだ記事を掲載しているんです。(実際の記事を見せながら)例えば、彼は学生時代にマルクスにハマって、競技ダンスに熱中して……という個人の物語を丁寧に紹介して、今の仕事の役割、それにかける情熱へとつなげています。
宇田川:ざっと拝見しただけでも、かなりボリュームのある記事ですね。ほう、彼はマルクスに興味があったのですね。
北野:というふうに、彼に会ったことがない方でも距離を縮めてもらえるようなフックを作れるようにと、手間暇をかけているつもりです。記事を作るための企画書には、「タイトルはこういう表現がよく、必ずこれらの項目は入れたほうがいい。なぜなら、あなたはこういう人だから。よって、ポートレート撮影はこういう雰囲気で……」と細かく指定をしています。
これを全員分個別に作っているのだと話すと驚かれるんです。「北野さん、自分の執筆だけでも忙しいはずなのに、社員全員にカスタマイズした記事を作るなんて大変じゃないんですか?」と。
確かに大変だし、面倒です(笑)。でも、僕がいつも言っているのは、そもそも「人を育てる」って、めちゃくちゃ面倒くさいものなんですよね。やりがいをもって働いてもらうとか、一人ひとりにパフォーマンスを発揮してもらうことは、面倒な工程を経ないとできないものだと思っています。だって、3人兄弟がいたら、3人とも性格や強みが違うのは当たり前ですよね? ここまでやらないと、人を動かすことなんてできない。だから、宇田川先生が、“他者との分かり合えなさ”を前提とされていることには、深く共感できるんです。
先ほど「戦略」の価値についての話題もありましたが、僕がこの実践を通じて感じているのは、「個人が心からやりたいと思うことと事業のKPI(重要業績評価指標)が交差するポイントを探して、それを維持すること」が、経営ができる唯一の戦略ではないかということです。
(続きは1月24日に公開予定です)
北野唯我氏をゲストに招くイベント「Raise LIVE」を2020年2月13日(木)夜7時から開催します。テーマは「天才を殺す組織 生かす組織」。対談相手は、シェアリングエコノミーなどに注力するガイアックスの上田祐司社長。ガイアックスはフラットな「ティール組織」を実践することで知られます。なぜ、「ティール組織」なのか。モデレーターは日経ビジネスの大竹剛。ぜひご参加ください。
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