人間関係がぎくしゃくする原因「ソンタック」
宇田川:例えば、業務をいくつも抱えて多忙でありながらも、新しいことをやらなければならないマネジャーがいる。しかし、メンバーの意識がなかなかそろわずに困っている。こういう状況は企業の中でよく起こっていますよね。
お互いのナラティヴを探っていくと、実はメンバーは「チームの方針が定まらないので、どう関わっていいか分からなかった」と思っていた一方で、マネジャーは「方針をガチガチに決め過ぎないほうが、メンバーがプロジェクトに参加しやすいのではないか」と配慮をしているといったことがよくあります。それぞれが認識する問題を“お互いに言わないでいたこと”が、ギクシャクの原因であることが多い。冗談のようで、よくあるパターン。これを「ソンタック」と名づけました(笑)。
北野:なんだか急に親しみが(笑)。
宇田川:はい。ちゃんとビジュアルのイメージもあって、某製薬会社商品のキャラクターに寄せて、カプセル状で上はニコニコ笑っているのに下半分は土に埋まっていて表情が見えないんです(笑)。
北野:キャラクターに置き換えて特徴を具体的に考えていくことで、問題をより明確に理解できそうですね。

宇田川:手っ取り早くノウハウに依存する前に、何が問題なのか、何に困っているのかを丁寧に解きほぐしていくことが大事だと思います。
北野:おっしゃる通りですね。ナラティヴ・アプローチは、宇田川先生のような専門家がいなくても企業内で実践できますか?
宇田川:できると思いますよ。今まさに、ある企業とその方法の開発について共同研究を進めているところです。今年のうちにはいろいろと披露できると思います。
北野:組織内で起きているすれ違いについては、僕も非常に大きな問題だと感じていて、最近、『OPENNESS(オープネス)』という本を書きました。この本の中で「職場の空気」を840万人の従業員データを使って科学しているのですが、取り上げた問題の1つが「ダブルバインド(二重拘束)」というもので、ここでは「言行不一致」という意味で使っています。
例えば、上司が部下に対して「いつでもなんでも言いに来てよ」と伝えたからといって、本当にいつでもなんでも言いに行けるわけではない。そんな状況はよくありますよね。なぜならば、上司が発した「なんでも言いに来てよ」には、ものすごく長い“前置き”が隠れているから。
「(日中は忙しいから対応できないけれど、17時以降なら席にいるから)いつでも」、「(自分なりに考えて行動したうえならば)なんでも」というふうに。この前置きの存在を察しないまま部下がコミュニケーションを続けると、「あれ、意見を言いに行ったのに、なぜ受け入れてくれないんだろう?」という結果になってしまう。そういうことが続くと、モチベーションが徐々に失われ、才能が発揮されなくなる。そんな現象は、大なり小なり、いろいろな企業で起きている気がします。
宇田川:そうですね。
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