まずは「相手をよく知らない」と知ろう

宇田川:唯一の解かどうかは分かりませんし、別の方法はあると思います。最近話題のアクターネットワーク理論しかり、拡張はいくらでもできるでしょう。しかし、「関係性として社会や世界を捉える」というアプローチは、中国古代の老荘思想やヨーロッパのアリストテレス系統の思想から継がれてきたものであり、「今だから重要になった」というより、人類にとって「ずっと重要だった」ものなんです。

 僕としては、旬なアプローチを取り上げたというより、普遍的な考え方を一般書として発信したという点が重要なポイントです。北野さんが共感したというミンツバーグの著作は、僕も学生時代から読んでいたのですが、彼が猛烈に批判した経営戦略論の大家にイゴール・アンゾフという人がいるんです。「シナジー効果」という言葉をつくった、経営戦略論の歴史では非常に重要な存在ですが、僕は彼の論を初めて読んだときに「おやじがやっていることと違う」と違和感を抱いたんですね。

 経営者だった父親の姿を彼の論に当てはめて考えたときに、しっくりこないところが多かった。かといって批判ばかりしても何の価値も生まないので、どうやって実際の組織の中で意味のあるものとして実践するかというのが課題なのだという認識をずっと持ち続けていました。

 加えて、昨今の流れとして、働き方改革やイノベーションの必要性が叫ばれながらも希望が持てるようなことがあまり生み出されてこない現状に課題を感じていました。「デザイン思考」など新しいキーワードがいろいろと言われているけれど、コンセプト自体は悪くないのに、コンセプトが消費されていって、社会は変わることなく、皆焦っている。何が問題なのかと考えると、我々が“関係性”でものごとを見られなくなっている、という点に尽きると確信を強めたんです。

北野:なるほど。僕たちが関係性の視点を持って課題を解決していけるようになるために、まず何から始めればいいのでしょう?

宇田川:まずはやはり、「“自分は相手をよく知らない”と知ること」が出発点になるのではないでしょうか。

 僕の好きな研究者の1人に、エドガー・シャインというアメリカの組織開発の研究者がいるのですが、彼の著作に『プロセス・コンサルテーション』という本があります。そこに書かれている「あなたの無知へアクセスせよ」という言葉がすごく好きです。要するに、いかに我々が分かっていないかを分かる必要がある、ということ。なぜ目の前で不都合や不愉快な現実が起きるのか、その背景についてよく観察する必要性に気づくことが、課題の解決につながる手がかりになると思います。

北野:まずは観察せよ、ということですね。

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