才能を殺す組織と生かす組織は、何が違うのか。新卒採用のクラウドサービスを手掛けるワンキャリア(東京・渋谷)の取締役で作家の北野唯我氏が対談を通じて探っていくシリーズ連載。今回のゲストは、著書『 他者と働く──「わかりあえなさ」から始める組織論』が話題の埼玉大学経済経営系大学院の宇田川元一准教授。上司や部下とぎくしゃくした関係に悩むビジネスパーソンが多い中で、組織の「溝」を乗り越えるにはどうしたらよいのかを、前・中・後編に分けて掲載する。
前編は、組織が抱える様々な問題を他者との関係性の中で捉え直すことの必要性について、宇田川氏に聞く。
■お知らせ
北野唯我氏をゲストに招くイベント「Raise LIVE」を2020年2月13日(木)夜7時から開催します。テーマは「天才を殺す組織 生かす組織」。対談のお相手は、シェアリングエコノミーなどに注力するガイアックスの上田祐司社長。ガイアックスはフラットな「ティール組織」を実践することで知られます。なぜ、「ティール組織」なのか。モデレーターは日経ビジネスの大竹剛。ぜひご参加ください。

北野唯我氏(以下、北野、敬称略):宇田川先生の著書『他者と働く──「わかりあえなさ」から始める組織論』を読ませていただきました。すごく面白かったですし、温かい本だなと感じました。
ビジネスの現場で起きる“分かり合えなさ”を拒否せず、出発点とする。そして、相手を論破するのではなく、忖度(そんたく)するのでもなく、相手の「ナラティヴ(立場・役割・専門性などによって生まれる“解釈の枠組み”)」に入り込んで、発展的な関係性を築いていく。
そういった「ナラティヴ・アプローチ」に宇田川先生が注目する理由を知りたいと思いました。なぜ、今のタイミングで発信されたのでしょうか?
宇田川元一氏(以下、宇田川、敬称略):タイミングという意味では、もっと早く発信したかったんですよ(笑)。僕は研究者ですから、基本姿勢として、ずっと関心を持ち続けてきたテーマがあり、それをようやく世に出せたというだけです。ナラティヴ・アプローチという手法自体も、僕のオリジナルではなく、臨床心理や医療の分野で研究と実践がなされてきたものです。僕がこのテーマに出合ったのは20年前、まだ大学院生の頃でした。
北野:何がきっかけだったんですか。
宇田川:社会心理学者のケネス・ガーゲンらの『ナラティヴ・セラピー』という論文集を読んで興味を持ったのが最初です。ただし、そのときは自分の研究には直接は取り入れず、もともと研究対象としていた経営戦略論の理論研究を続けていました。
その後、「戦略」という言葉を権力者から言われたときの違和感に気づいて、批判系の経営研究(クリティカル・マネジメント・スタディーズ)に傾きかけたのですが、研究していくとむなしくなるんですよね。つまり、批判すべき問題はいくら挙げてもきりがない。批判の目的は「良くするため」であるはずなのに、自分は外野から批判することに何の意味があるのだろうかと思うようになったわけです。
たまたまそのタイミングで、ガーゲンの『あなたへの社会構成主義』という本を読んだら、ズバリ、僕が抱いていた違和感が書かれてあった。つまり、「批判することも大切だが、我々はそこで止まっていいのだろうか」と。分断を生み出すのではなく連帯を構築するために、社会に働きかけていこうというメッセージを受け取って、とても共感できたんですね。10年前くらいのことです。
北野:若い人や学生と話していると、「戦略」への過度の期待や憧れを持つ人は多いと感じます。僕は事業会社の経営企画、コンサル時代から戦略に近い仕事をしてきましたが、戦略に偏り過ぎた議論を繰り返す人たちを見ながら、「この人たちが会社にポジティブな影響を与えているイメージがわかないな」と、正直感じていました。経営学者のヘンリー・ミンツバーグが書いた『MBAが会社を滅ぼす』を読んだときには、「経営学者が戦略を否定するなんて」と衝撃を受けるとともに共感しました。
とはいえ、ビジネスでものごとを順序立てて進めていくための手法はやはり必要ですよね。その手法の1つが、宇田川先生が提唱する「ナラティヴ・アプローチ」や「対話」だと理解しています。つまり、正論では解決できない問題へ立ち向かうための解なのだと。それは果たして唯一の解なのでしょうか。それとも、たくさんある解のうちの1つとして興味を持たれたということなのでしょうか。
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