そうした米国の警戒感の矛先となったのが、短期間で世界トップクラスの巨大通信機器会社に急成長した華為技術(ファーウェイ)である。中国が将来の経済・軍事覇権のカギを握るデジタル技術においてもキャッチアップしているとの危機感は我々が想像する以上に強い。

 それを反映したのが、先に述べた国家安全保障戦略であり、ペンス演説である。この他に、中国の技術移転戦略(18年1月)、通商製造政策局(OTMP)リポート(18年6月)、米国の国防産業基盤とサプライチェーン報告書(18年10月)、米中経済安全保障調査会年次報告書(18年11月)などにおいて、警戒感と危機感が示され、対中輸出・投資規制の強化の必要性が強調された。

ペンス副大統領(手前左)は中国の台頭に警戒心をあらわにする(写真:共同通信)
ペンス副大統領(手前左)は中国の台頭に警戒心をあらわにする(写真:共同通信)

 こうした危機感は党派を超えて共有されており、連邦議会の対応も厳格化している。例えば、外国投資リスク審査近代化法(FIRRMA)や輸出管理改革法による対応である。総じて、中国が違法・不適切な手法も含め、米国の技術的優位を突き崩そうとしているとみなし、これに全面的に対抗していくとの姿勢が明らかになっている。

世界を分断する「デジタル・鉄のカーテン」

 以前、私はあるテレビの討論番組で「デジタル・鉄のカーテン」という言葉を使って、世界のデジタル技術体系が米中二極化に向かう可能性を示唆した。ファーウェイ問題はその始まりとも言える。すなわち、米国のファーウェイ締め出し措置が「5G」など先端技術に関係する西側のサプライ・チェーンからの中国排除につながっていけば、短期的には、中国のハイテク企業は大きな打撃を受け、ZTE(中興通訊)制裁のケースで明らかになったように、中国の⾃信を傷つけるだろう。しかし、中長期的には、それは中国を独⾃の技術体系の構築にまい進させ、世界はかつての冷戦時代の「鉄のカーテン」に擬せられる「デジタル・鉄のカーテン」によって2つの技術体系を持つ陣営に分断されるかもしれない。

 貿易戦争はナショナリズムを刺激する。中国指導部も弱腰は見せられない。昨年7月、中国商務省は声明を発し、「打つことを望まないが、打つことを恐れもしないし、必要となれば打たざるを得ない」という原則的立場を明らかにしたが、その後の展開は中国政府を「打たざるを得ない」状況に追い込んでいる。

 今年5月の米中貿易協議では、米国が、主権と平等(米との対等)にこだわる中国の土壇場での譲歩拒否を非難して、追加関税の発動を決定し、これに対し、中国も報復関税で対抗する構えを取った。そして、⺠族感情が動員される。中国国営中央テレビは、中国⼈⺠志願軍が⽶軍を押し返した朝鮮戦争を題材にした映画を放映し、「愛国」を高揚する。

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