一例を挙げよう。中国政府系の有力科学紙「科技日報」で総編集長を務める劉亜東氏が「国家の政策を誤らせ、国民を惑わし、世界の警戒感を高める」と批判したのが、胡鞍鋼・清華大学教授が記した報告書である。同報告書では経済力や科学技術力、総合力で中国は米国を抜いて世界一になったと主張したが、劉氏は中国と米国など先進国の科学技術のレベルには依然大きな開きがあると反論する。そんな劉氏の批判に対しては、中国共産党機関紙、人民日報系の「環球時報」も社説で支持、国民に謙虚になるべきだと戒めている(2018年6月24日)。
消えない過剰な自信
それでも中国国内からは依然として、中国は総合国力で米国を抜いたとか、貿易戦争は中国の勝利に終わるとの声が聞こえてくる。
共産党宣伝部の肝いりで作成された映画「すごいぞ、我が国」も過剰な自信を示すものだった。
この映画は組織的動員もあって記録的入場者数を誇ったが、米国との貿易戦争が始まると、放映禁止になった。大国意識の背景には党中央宣伝部のプロパガンダも影響したとの指摘があり、王滬寧中央政治局常務委員(宣伝担当)の責任追及の噂も流れた。
チャイナ・ウオッチャーからは、習主席の中東訪問に同行しなかった王と習の関係悪化の観測や、しばらく姿を見せない王の失脚説まで報じられたほどだ(常務委員になった王滬寧が習の外遊に同行せずとも不思議ではないし、まして汚職で失脚した周永康の異常なケースは別として、常務委員の失脚はよほどのことがない限り考えられない)。
5月15日に北京で開いた「アジア文明対話」において、習近平国家主席は、「傲慢や偏見を捨て」、互いに尊重し合い、平等に向き合おうと呼びかけた。それは、米国を意識したプロパガンダであるが、同時に中国自身も戒めとすべき文句であり、世界大国化する中国が世界に向き合う姿勢として発すべきメッセージであることを認識する必要があろう。
中国のある学者は、私の質問に対し、頭を低くする「韜光養晦」を捨てたわけではなく、「平和発展」という対外政策は一貫していると述べたが、一度頭をもたげたことで広がった疑念や警戒感は簡単に払拭できるものではないし、また、民族感情から言っても今更頭を引っ込めるわけにはいかないだろう。
Powered by リゾーム?