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 中国の習近平国家主席が「アジア文明対話」の基調演説で何度も強調したフレーズがある。「文明の対話」。私は、その言葉の背後に、「文明の衝突」論へのけん制が込められていると感じた。

習近平氏は「文明の対話」を呼びかけるが……(写真:共同通信)

 「異なる文明間の交流と対話」による平和的共生を呼びかけた習主席の演説の半月前、米国務省政策企画局長のキロン・スキナー氏は、米中競争を「異なる文明、異なるイデオロギーとの戦い」と呼び、「米国がかつて経験したことのない戦いである」と指摘して、波紋を呼んだ。政策企画局長と言えば、冷戦時代の対ソ「封じ込め」戦略の「提唱者」として有名なジョージ・ケナン氏が頭に浮かぶ。スキナー氏はケナン氏の「X論文」を念頭に置いて発言したようで、米ソ冷戦との違いを次のように表現した。

中国は特異な挑戦者

 中国の体制は西洋の歴史や哲学から生まれたものではないため、中国は米国にとっての特異な挑戦者となっている。中国との戦いは西洋の家族の中での戦いであった冷戦とは異なる。米国は、白人ではない強力な競争相手に初めて直面している。

 彼女の認識は、米国の政治学者サミュエル・ハンチントン氏が1990年代に提唱した「文明の衝突」論を念頭に置いたものだ。ハンチントン氏は、文明を「最高の文化を持つ人間の集団」と定義し、「すべての国は文化を共有する文明圏に参加し、協力しようとするが、文化的に異なるものには対抗しようとする」と論じた。同氏によれば、冷戦後の紛争の根本的原因は文化的なものであり、主要な国際政治上の紛争は異なる文明を持つ国家や集団の間で起き、その中でもイスラム文明と中華文明が西欧文明に対し最も衝突の危険が高いとされた。

 これに対し、習主席は、「文明は本来衝突しない」「文明に優劣はない」「自らの人種や文明が優れていると考え、他の文明を改造し、果ては取って代わろうとするやり方は愚かで破滅を招く」とくぎを刺した。スキナー氏以外にも、ボルトン大統領補佐官をはじめ、トランプ政権内からは「体制転換」論が頻繁に聞こえてくる。習演説は、それを警戒しけん制する格好となった。

 こうした米国タカ派の主張は、中国に限らず、イランや北朝鮮の問題にも影を落としており、米国と対立する諸国が中国と関係を深める要因の一つとなっている。中国は、「対抗」ではなく「対話」、「同盟」ではなく「パートナーシップ」を原則とする外交を展開すると表明してきており、米国のような同盟網は持たないが、「一帯一路」や「アジア文明対話」を通じて友邦圏(中国語「朋友圏」)を広げ、米国の圧力に耐える態勢をつくろうとしている。