難度を増す外交・内政のかじ取り

 その一つが、合意を履行させるための米国の一方的監視・制裁メカニズムの創設である。米国は中国が貿易・市場アクセスの改善を約束しても履行しなかった過去の失敗に懲りており、中国の外商投資法の制定などの約束だけではなく、知財保護や外国企業に対する技術移転要求の停止などが実際に履行されることを求め、そのためのメカニズムを要求している。

 それは、中国の違反に対して米国が一方的に制裁を科すことができる手段を米国に付与することにもなり、中国には主権や尊厳の侵害と映る。国内の反米ナショナリズムが高まる中で、米国のこうした要求は中国として飲めるものではない。

 もっとも、米中貿易戦争に出口が見えなければ、中国経済への影響は大きくなり、社会の不満は現政権にも向かってきかねない。習近平政権の外交・内政のかじ取りは難度を増している。

 一方、第4次産業革命の核心となるデジタル技術は、将来の経済覇権のみならず、軍事覇権のカギも握るだけに、米国の立場も固い。通商と安全保障を絡め、力ずくで中国に譲歩を迫る。中国通信機器大手の華為技術(ファ-ウェイ)の締め出しは、その一例だ。

 トランプ大統領の対中強硬姿勢には、共和・民主の党派を超えて幅広い支持がある。貿易戦争による消費者の負担増や農業州への打撃はあっても、好調な経済と関税収入増(米国の消費者にしわ寄せ)による農業補助金支援を背景に、トランプ大統領も強気の姿勢を崩さない。中国とのビッグ・ディールはもちろん、そのための対中強硬姿勢そのものが大統領再選のシナリオの一部と考えている節もある。皮肉なことに、中国では、トランプ大統領再選を予想する声が支配的だ。

 ただし、米国の次期大統領が誰になるにせよ、貿易戦争の背後にある先端技術をめぐる競争と台湾や南シナ海をめぐる対立は続くだろう。そして、より深刻なのは、陰りを見せる超大国と台頭する超大国候補の間の覇権闘争が経済や軍事・安全保障から政治体制や文化・価値にも及ぶ「新冷戦」の様相を濃くし始めたことである。

 米中激突の流れの中で、中国が恐れるシナリオの一つが、米・日・豪・印の軍事・安全保障の提携である。中国としては、米国と同盟国や友好国が結束し、「自由で開かれたインド太平洋」戦略(日本は「構想」と改称)と重なり合う形で、米・日・豪・印を中心とする中国包囲網が形成されることは何としても阻止したいであろう。

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