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 5月15日、北京で、第1回「アジア文明対話」が開催された。2014年に習近平国家主席が提唱してから5年目にしてようやく実現にこぎつけたものであり、「一帯一路」国際フォーラムと並ぶ今年の中国外交の重要行事であると知り、招待を受けて出席した。中国側の発表では、スリランカ、シンガポール、ギリシャ、カンボジア、アルメニアの首脳、UNESCOなど国際機関の指導者、アジア47カ国および域外国の関係者ら2千人余りが出席する一大イベントであった。

 中国の力の入れようは、習近平国家主席が開幕式に出席して基調演説し、夜には夫妻で国家体育館「鳥の巣」(北京オリンピック会場)でのアジア文化祭典に出席したことでも明らかだ。現場の準備に当たった政府関係者によれば、習主席の出席は直前になって最終決定されたようだ。実際、習主席の出席が決まると、安全検査や警備体制をはじめ様々な変更が必要となり、現場では徹夜の作業が続き、混乱も起きた。私も当日の出発時間になってやっとIDを手に入れて会場に入ることができた。

 この背景として、米中関係の悪化、貿易戦争の激化、そしてそれが貿易のみならず、軍事やイデオロギーをめぐる「新冷戦」の様相を帯び始めたことに加え、「文明の衝突」という文化とアイデンティティーをめぐる闘争も顔をのぞかせ始めたことが指摘できる。

 習近平国家主席の演説や現場で耳にした議論を通して、米中貿易戦争と「アジア文明対話」の意味について、様々な角度から論じてみたい。そこから、中国の国際認識や外交戦略、さらには米中「新冷戦」の行方や新たな国際秩序の姿も見えてくるはずだ。

5月15日、北京で開かれた「アジア文明対話」で演説した習近平国家主席(写真:AFP/アフロ)

 「アジア文明対話」の約1週間前、米中貿易協議が決裂し、米中双方が追加・報復関税をかけ合う形で貿易戦争が激化した。

 米中関係に詳しい中国人学者の見立ては次のようなものだ。

 「(国営メディアの)人民日報や新華社が公式には使用を控えていた『貿易戦争』という言葉を使い始めたことが物語る通り、中国は米国の仕掛ける貿易戦争を受けて立つ臨戦モードに入った。同時に、足元のアジアでの結束を固める必要性をより強く認識し、それが『アジア文明対話』に対する習主席の深いコミットにつながったというわけだ」

 中国の政治や外交を掣肘(せいちゅう)するナショナリズムには、アヘン戦争以来の「近代の屈辱」が歴史の記憶として刻み込まれている。主権をめぐる問題では、最高権力者、習近平国家主席といえども、民族感情を刺激するような譲歩は困難だ。