令和という新しい時代に突入し、企業と個人の結びつきが大きく変わろうとしている。特に最近、多くのビジネスパーソンにとって印象的だったのが、トヨタ自動車の豊田章男社長の発言ではないだろうか。「終身雇用を守っていくのが難しい局面に入ってきた」――。経団連の中西宏明会長も、終身雇用について「制度疲労を起こしている」と語った。戦後の経済発展を支えてきた日本企業が、相次いで「終身雇用」という仕組みが続かないと明かしたのだ。昭和と平成を貫いてきた企業と個人の関係が曲がり角を迎えている。その先にある新しいカンケイとは。
本連載では、国内最大級の社員クチコミサイト「OpenWork(オープンワーク)」を運営するオープンワークの副社長や、組織・人材コンサルティング会社リンクアンドモチベーションの取締役を務める麻野耕司氏が、令和時代の新しい企業と個人の関係について解説する。連載3回目からは企業と個人が「オープンな関係」を構築していると麻野氏が評価するメルカリの小泉文明社長が登場。対談の後編では、採用環境が大きく変わる中で企業が果たすべき役割について話を聞いた。人に人格があるように、企業にも「法人格」があると語る小泉社長。その中で「選ばれる」企業になるにはどうすればいいのか。
(聞き手/日経ビジネス編集部 日野なおみ)

麻野氏(以下、麻野):メルカリの小泉文明社長と一緒に、令和時代の企業と個人の関わり方について議論してきました(メルカリ小泉社長が明かす「僕らがリファラル採用ができるワケ」)。
これから先、企業と個人がフラットな「横の関係」に変わっていく。昭和の時代のように、企業は社員に終身雇用を約束し、その代わりに企業が社員の一生を縛る、というような関係は終わるはずです。
この過渡期の中で、特に理不尽な扱いを受けるのが大企業に勤める50代です。新卒で入社してからずっと終身雇用と年功序列を信じて30年近く勤めてきた。ようやく給与がぐっと増え、多額の退職金も視野に入る時期です。
そこで突然、会社から「終身雇用は無理」「年功序列をやめて実力主義にする」と言われると、ハシゴを外されたような気持ちになります。この先、50代以上の生産性をどう高めるかは、1つの社会問題になるはずです。
小泉社長(以下、小泉):僕はこれからの時代は、50代以上の世代にとっても大きなチャンスがあると思っています。
インターネットという技術は、この20年間「閉じられた」ものでした。ツイッターなどのSNS(交流サイト)も、僕らの運営する「メルカリ」も、基本的にはインターネット上で完結する。言い方を変えれば、すべてスマートフォンの「中」で終わっていたサービスなのです。
けれどこれから5Gの時代に入って、IoT(モノのインターネット化)が本格的に広がると、テクノロジーが本格的に人々のリアルな生活に入っていく。実社会のデジタル化が進む中で、改めてインターネットの「外」の社会を、テクノロジーでもう1度デザインし直す必要があるのです。
ここで強いのが、リアルな世界を知っている大人たちです。
例えば20代の若手が「スマートシティーをつくります」といっても、街づくりの経験がありません。一方、50代以上は、過去に培った経験を生かし、それをデジタル時代に合わせてデザインし直すことができれば、大きな強みになる。「街づくりなら、この機能は欠かせないよね」といった戦い方ができるわけです。
今はまだ日本の大企業の大半が、CTO(最高技術責任者)を置いていません。けれどこの先、大企業が自社の技術を再評価し、先を読み、戦略的にどの技術に賭けて伸ばすのかを決めれば、そこには大きな「経営力の差」が生まれてくる。そして、テクノロジーの戦略次第では、50代以上の世代にも活躍する場がたくさん生まれるのです。
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